寒い3階建て住宅のリノベーション|60代夫婦の終の住処計画

はじめに
築35年の鉄筋コンクリート造3階建て住宅。
敷地は約20坪。
1階には駐車場と事務所、2階にはLDKと水まわり、3階には寝室と子ども室があります。
子育て時代には合理的な住まいでしたが、子どもが独立した現在は60代のご夫婦二人暮らし。
暮らし方の変化とともに、住まいの課題も見えてきました。
今回は、寒い3階建て住宅を、これからの人生を快適に暮らすための終の住処へ改装する提案です。
現在のお住まいが抱えていた課題
下図は現在お住まいの平面図です。



1階平面図 2階平面図 3階平面図
現在の住まいは、築35年の鉄筋コンクリート造3階建て住宅です。
敷地は約20坪。
都市部の限られた敷地の中で家族5人が暮らすため、建築当時としてはとても合理的な計画だったと思います。
1階には駐車場と事務所。
2階にはLDKと浴室などの水まわり。
3階には寝室と子ども室。
必要な機能を上下に積み重ねることで、限られた敷地を有効活用しています。
しかし、家族構成や年齢が変わると、住まいに求められるものも変わってきます。
子どもたちが独立し、現在は60代のご夫婦二人暮らし。
住み慣れた家ではあるものの、日々の暮らしの中でいくつかの課題が見えてきました。
1.冬の寒さ
まず大きな問題は冬の寒さです。
築35年前後の住宅は、現在の住宅と比べると断熱性能が十分とは言えません。
といいますか、断熱はほぼ無しです。
さらに鉄筋コンクリート造は熱を蓄える性質があるため、一度冷えてしまうとなかなか暖まりません。
暖房をつけても足元は冷たく、部屋ごとの温度差も大きくなります。
特に浴室や脱衣室は寒く、命の危険を感じるほど、殺人的な寒さです。
シャワーのお湯は、体に当たってはね、その水滴が冷えて、また体にあたります。その冷たいこと、冷たいこと、ちっとも体が温まらないのです。
若い頃は気にならなかった寒さも、年齢を重ねるにつれて体への負担は大きくなります。
快適性だけでなく、ヒートショックなど健康面のリスクも無視できない状況でした。
2.毎日の上下移動
もう一つの課題は階段です。
現在の寝室は3階にあります。
一方でトイレや浴室は2階。
夜中にトイレへ行くたびに階段を下りなければなりません。
このような生活は、60代を迎えると少しずつ負担になっていきます。
今は問題なくても、10年後、15年後を考えたとき、この階段を上り下りし続ける暮らしに少なからず危険を感じてしまいます。
住まいは今だけでなく、将来の暮らしも見据えて考える必要があります。
3.子育て時代の間取り
この住まいは、もともと子供が3人の、5人家族ための家です。
家族それぞれの居場所を確保し、限られた敷地の中で必要な部屋数を確保することが優先されていました。
しかし現在は夫婦二人暮らし。
使わなくなった子ども室もあります。
家が広すぎるわけではありません。
むしろ都市部の住宅としてはコンパクトな部類です。
それでも、今の暮らしに本当に必要な空間は以前とは大きく変わっています。
ご夫婦に今後求められるのは部屋数ではなく、
暖かく、
移動が少なく、
無理なく暮らし続けられる住まいです。
4.建替えという選択肢
もちろん、こうした課題を解決する方法として建替えも考えられます。
しかし、建築費の高騰が続く現在、建替えには大きな費用が必要です。
解体費用、仮住まいなど、余分な費用もかかり、現実的ではありません。
また、なにより狭小な敷地条件を考えると、駐車場を設けて、理想とする平屋を計画することも簡単ではありません。
そこで今回の計画では、
家を壊して新しく建てるのではなく、
今ある建物を活かしながら、これからの暮らしに必要な機能だけを見直す方法を考えることにしました。
そしてたどり着いたのが、
「平屋を建てる」のではなく、
「平屋のように暮らす」
という考え方でした。
まず考えたのは「何を残し、何を変えるか」
今回の住まいは、築35年とはいえ鉄筋コンクリート造です。
構造体そのものはまだ十分に活用できる状態でした。
また、都市部の限られた敷地では駐車場の確保も重要な条件になります。
そこで私たちが考えたのは、
「現実的な予算の中で、これからの暮らしをどう良くするか」
ということです。
そこで今回は、家全体を大きく改修するのではなく、
これからの人生に本当に必要な場所だけを整えるという考え方を採用しました。
平屋を建てるのではなく、平屋のように暮らす
今回の計画で目指したのは、平屋そのものではありません。
目指したのは、
平屋のような暮らしです。
年齢を重ねると、暮らしの中で本当に使う場所は意外と限られてきます。
食事をする。
お茶を飲みながらくつろぐ。
眠る。
入浴する。
トイレへ行く。
日常生活の大部分は、このような行為で構成されています。
これらを一つの階にまとめることができれば、将来的にも安心して暮らし続けることができます。
もちろん狭小地の建物ですから、1階に全てをまとめて計画することは容易なことではありません。
しかし暮らし方を見直すことで、
「階段を使わなくても生活できる住まい」
をつくることはできるのではないか。
それが今回の計画の基本的な考え方、テーマです。
駐車場を残すと使える面積は約9坪
ここで大きな課題!
1階には駐車場があります。
移動の手段として、車は生活に欠かせません。
そのため駐車場をなくして居住スペースを広げるという選択肢はありえません。
すると、住まいとして使える面積は、わずか約9坪。
数字にするとおよそ30㎡ほどです。
決して広い空間ではありません。
ワンルームマンションの標準的な広さが、約25㎡ですから、いかに狭いかがお分かりいただけると思います。
その限られた面積の中に、
キッチン
ダイニング
寝室
洗面
浴室
トイレ
という、暮らしに必要な機能をすべて納める必要があります。
普通に考えれば、
「そんな小さな面積で本当に暮らせるのか」
と思われるかもしれません。
しかし一方で、
夫婦二人の暮らしに本当に必要なものは何か。
今回の計画は、
単に小さな家をつくる提案ではありません。
これからの人生に本当に必要な暮らしを見つめ直し、それを9坪という限られた空間の中で実現できないか。
そんな挑戦でもあります。
9坪の終の住処計画
今回の計画案は下図のような間取りです。

今回の計画で最も大切にしたのは、
「限られた面積をどう広く使うか」
そして、
「これからの暮らしに本当に必要なものは何か」
を考えることでした。
一般的な住宅では、
リビングがあり、
ダイニングがあり、
寝室があり、
書斎、家事室があり
そして、納戸があり、
それぞれの用途ごとに部屋が用意されています。
しかし、面積が限られている中で同じ考え方をすると、どうしても窮屈な住まいになってしまいます。
そこで今回は、
空間を細かく分けるのではなく、
一つの場所に複数の役割を持たせることを考えました。
ダイニングを暮らしの中心に
多くの住宅ではリビングが主役になります。
しかし夫婦二人の暮らしを考えたとき、本当にリビングなしで生活できないか。
朝食をとる。
新聞を読む。
趣味を楽しむ。
パソコンを開く。
お茶を飲みながら会話する。
実際にはダイニングテーブルで十分に過ごすことが可能です。
そこで今回は、あえて独立したリビングを設けず、ダイニングを住まいの中心に据えました。
食事だけではなく、
読書や趣味、
来客時の応対まで、
さまざまな用途を受け止める場所です。
限られた面積だからこそ、一番使う場所にしっかり面積を割くことが大切だと考えました。
畳スペースは「寝室」であり「居場所」でもある
今回の計画では、寝室も一般的な個室にはしていません。
ダイニングに隣接した小上がりの畳スペースとして計画しています。
昼間は腰掛けたり、
ごろりと横になったり、
庭をながめたりする場所。
夜になると布団を敷いて寝室になります。
そして、小上がりの畳下の空間は収納に利用できます。
使う時間によって役割を変えることで、一つの空間を有効に活用しています。
また、完全な個室にしないことで視線が抜け、実際の面積以上の広がりも感じられます。
夫婦二人の暮らしだからこそできる、コンパクトな住まいの工夫です。
水まわりをコンパクトに集約する
老後の住まいでは、
「どれだけ広いか」
よりも、
「どれだけ移動しなくて済むか」
が重要になります。
今回の計画では、
洗面、
浴室、
トイレを一箇所にまとめました。
夜中にトイレへ行く時も、
寒い廊下を歩く必要はありません。
将来、体力が低下したとしても無理なく暮らし続けることができます。
小さくても豊かに暮らせる住まいへ
9坪という面積だけを見ると、とても小さく感じるかもしれません。
夫婦二人の暮らしを改めて見つめ直し、
本当に必要な機能だけを残し、
一つ一つの空間に役割を持たせることで、
小さくても豊かに暮らせる住まいを目指しました。
今回の計画は、
「9坪で我慢して暮らす家」ではなく、
「9坪だからこそ無駄がなく、快適に暮らせる終の住処」
を目指した提案です。
こんな暮らしをイメージしました
【キッチンからダイニングを見る】

今回の計画では、ダイニングを住まいの中心に据えています。
一般的な住宅のようにリビングとダイニングを分けるのではなく、一つの空間に暮らしの中心を集約しました。
朝起きて食事をする。
新聞を読む。
テレビをみる。
お茶を飲みながら会話をする。
夫婦二人の暮らしでは、実はこうした日常の多くがダイニングテーブルのまわりで行われます。
だからこそ、限られた面積の中でも一番居心地の良い場所になるよう計画しました。
さらに、TV台の横には、奥様用の家事机も用意しました。本棚も設けています。
また、小さな空間でも圧迫感を感じないよう、窓の配置や天井の高さにも配慮しています。
面積はコンパクトでも、視線の抜けや自然光によって広がりを感じられる空間を目指しました。
ダイニングについて詳しくは”狭い家でも快適に暮らす設計|狭い家の間取りはダイニングが重要|4.5畳を中心にした暮らしのつくり方”をご覧下さい。
【畳コーナーからダイニングを見る】

ダイニングの隣には小上がりの畳スペースを設けています。
この場所は、単なる寝室ではありません。
昼間は腰掛けたり、ごろりと横になったりできるくつろぎの場。
読書をしたり、庭を眺めたり、時にはうたた寝をしたり。
そんな自由な居場所として考えています。
そして夜になれば布団を敷いて寝室になります。
そのためにコンパクトな押入れも用意しました。
限られた面積だからこそ、一つの場所に複数の役割を持たせることで、暮らしに無理のない広がりを生み出しています。
また、寝室を完全な個室にしないことで、視線が奥まで抜け、実際の面積以上の開放感を感じることができます。
夫婦二人の暮らしだからこそ実現できる、コンパクトな住まいの工夫です。
コンパクトな押入れについて詳しくは”狭い家でも快適に暮らす設計|狭い家の収納は足りる?「収納量」ではなく「配置」で解決する考え方”をご覧ください。
【ダイニングからキッチンを見る】

キッチンは決して広くありません。
しかし、必要な機能をコンパクトにまとめることで、無理なく使える計画としています。
料理をしながらダイニングにいる家族と会話ができる距離感。
食事の準備や片付けも最短距離で行えます。
小さなスペースですが、その分移動も少なく、暮らしの動作に無駄がありません。
年齢を重ねるほど、こうした小さな負担の積み重ねが暮らしやすさにつながります。
今回目指したのは、広さを競う住まいではなく、夫婦二人が心地よい距離感で過ごせる住まいです。
必要なものが手の届く範囲にあり、冬でも暖かく、将来も安心して暮らせる。
そんな終の住処をイメージしながら計画しました。
キッチンについて詳しくは”狭い家でも快適に暮らす設計|狭い家のキッチンはどうする?コンパクトでも使いやすいキッチンの工夫”をご覧ください。
床下エアコンで家全体を暖める
今回の計画では、断熱改修によって建物の性能を高めるだけでなく、暖房方式にも工夫を取り入れています。
採用したのは床下エアコンです。
一般的な壁掛けエアコンの暖房では、暖かい空気が天井付近に溜まりやすく、足元はなかなか暖まりません。
暖房をつけていても足元だけ寒い。
リビングは暖かいけれど廊下やトイレは寒い。
そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。
特に今回のような築年数の古い住宅では、部屋ごとの温度差が大きくなりがちです。
しかし本当に快適な住まいとは、暖房の設定温度が高い家ではなく、
家のどこへ行っても温度差が少ない家
だと考えています。
足元から暖まる心地よさ
床下エアコンは、その名の通り床下空間を利用して家全体を暖める仕組みです。
床下エアコンの仕組みは下図のとおりです。
家庭用の壁掛けエアコンを床面から床下に半分ほど下げた状態で設置し、暖気を床下に吹き出します。
そして、床面に設けたガラリからその暖気が室内に上がってきて、部屋を温めるという仕組みです。
この床下の空間は、家全体に広がっているため、各室に満遍なくガラリを設置することで、家中を暖めることができるわけです。

暖かい空気が床面からゆっくりと広がるため、足元から暖かさを感じることができます。
冬場の暮らしでは、室温以上に足元の温度が快適性を左右します。
床が冷たいだけで、同じ室温でも寒く感じてしまうからです。
今回の計画では、床下エアコンによって素足でも心地よく過ごせる環境を目指しました。
浴室やトイレまで暖かく
今回の住まいで解決したかった課題の一つが、浴室やトイレの寒さでした。
暖かい部屋から寒い脱衣室や浴室へ移動すると、身体には大きな負担がかかります。
年齢を重ねるほど、その影響は大きくなります。
床下エアコンは、リビングだけを暖める暖房ではありません。
適切に計画することで、浴室やトイレを含めた住まい全体の温度差を小さくすることができます。
今回の計画でも、生活空間だけでなく水まわりまで含めて暖かさが行き渡るように考えています。
小さな住まいだからこそ相性が良い
今回の終の住処は約9坪。
一般的な住宅と比べると非常にコンパクトです。
しかし、このコンパクトさは床下エアコンにとって大きなメリットでもあります。
暖める範囲が限られているため、少ないエネルギーで効率よく家全体を暖めることができます。
また、ワンフロアで生活が完結するため、温度ムラも生まれにくくなります。
暖かさは老後の安心につながる
今回の計画で目指したのは、単に寒さを解消することではありません。
これから先も安心して暮らせる環境を整えることです。
階段を使わなくても生活できること。
移動距離が短いこと。
そして冬でも家のどこにいても暖かいこと。
そんな一つひとつの積み重ねが、快適で安心できる終の住処につながると考えています。
断熱改修と床下エアコン。
この二つを組み合わせることで、築35年の寒い3階建て住宅は、これからの人生を支える暖かな住まいへと生まれ変わります。
床下エアコンについて詳しくは”床下エアコンとは?仕組み・メリット・注意点をわかりやすく解説”をご覧ください。
まとめ|終の住処に必要なのは広さではなく暮らしやすさ

今回の計画は、
「9坪で暮らせるか」
という挑戦ではありません。
本当に考えたかったのは、
「これからの人生に必要な住まいとは何か」
です。
寒い家を暖かくする。
階段の負担を減らす。
掃除や管理を楽にする。
そして安心して歳を重ねられる環境を整える。
敷地20坪の3階建て住宅でも、
暮らし方を見直すことで、
平屋のように暮らせる終の住処は実現できると考えています。
60代は子供も独立し、人生のライフステージが変わる節目でもあります。
こちらのお住まいのように、家をダウンサイジングして、生活を見直すいい機会だとも思います。
これからの人生を、暖かくて使い勝手の良いお家で過ごせたらどんなにいいことでしょうか。
もし、お住まいを見直してみたいとお考えの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。
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