平屋へのあこがれ

なぜ今、平屋にあこがれるのか
最近、平屋で家を建てたいと思っている人が増えていると聞きます。
ワンフロアで暮らせる安心感や、シンプルでゆとりのある空間。
なんとなく「暮らしやすそう」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
私も最近、平屋の家を設計し、昨年末に竣工しました。
そのお宅は、60代のご夫婦で、鉄骨造3階建ての家に住んでおられました。
築30年以上で、断熱も貧弱で、夏の暑さ、冬の寒さが非常に厳しく、上下の移動も大変でした。
そこで一大決心して、そんな生活にピリオドをうって、終の住処として、木造の平屋の家を新築されたわけです。
新しいお家は、断熱性能、気密性能を高めて、自然素材をふんだんに使い、デザイン的にも技術的にも、私の設計の集大成として、持てる能力の全て注ぎ込んで設計にあたりました。
断熱等級6、気密性能はC値0.6、耐震等級3で、制振ダンパーも設けています。ロフトを囲む大屋根で、小屋組もあらわし、床下エアコンも採用し、魅力的な空間に仕上がりました。
特に床下エアコンについては、家のどこにいても満遍なく暖かく、その環境は住宅用の壁掛けエアコン1台で、実現できています。
完成した住宅は、とても良い出来でご夫婦も満足され、この冬も暖かく、特に造作で作ったキッチンはとても使いやすいと喜んでいらっしゃいました。
この家を完成させて、自分でも体感しているうちに、平屋の使いやすさ、温熱環境の良さなど、「やっぱり平屋の家はいいな」とつくづく思った次第です。
そんな折に、私と同年代の60代のご夫婦(Kさん)から住宅のご相談を受けました。
私たちのような年齢になると、子供も独立し、ライフステージが変わる中で、人生の後半として、今の家のままで良いのかと考ることもしばしばです。
こちらのご夫婦も、現在3階建ての家に住んでおられますが、子供さんも自立した今、夫婦2人だけの生活を見直されています。
できれば小さくてもいいので、平屋の家ができないか思案中とのことです。
やはり、平屋の家に憧れているそうです。
3階建ての暮らしで感じはじめた「問題点」
Kさんご夫婦のお話です。
現在お住まいは、築35年ほどの3階建てのお宅です。
これまで何の問題もなく、暮らしてこられました。
しかし、子供さんが次々に自立して家を出ると、部屋があまってっしまい、決して広くない家なのに、大きく感じるようになってきたそうです。
特に奥さんは、歳を重ねて将来一人で暮らすことになった場合を考えると、今の家は広すぎて怖いと感じてしまうそうです。
そして、もう一つ大きな問題は、古い家なので断熱がされていなくて、夏は暑く、冬はとても寒いということです。
若い頃は、それほど気にしてはいなかったそうですが、60代になった今、特に、冬の寒さはとても辛いとのことです。
また、今現在生活自体は問題なくできていますが、日々の中で小さな不便を感じることも増えてきたそうです。
特に気になるのが、上下移動です。
お風呂やトイレを使うたびに、階段を上り下りする。
日中はまだいいのですが、これが夜になると話は変わります。
寝てからトイレに行くとき、眠い中で階段を降りる。
寝ぼけて足元もおぼつかず、「少し危ないな」と感じることがあり、さらに断熱が不十分なため、体が一気に冷えてしまうのです。
これでは年齢を重ねたときには、どうなるのか。
今は大丈夫でも、将来は確実に負担になるだろうと思います。
こうした日常の積み重ねが、「平屋っていいな」と思うきっかけになったそうです。
「上下移動がない」だけで暮らしはこんなに変わる
平屋の一番の魅力は、やはり上下移動がないことです。
ワンフロアで生活が完結する。
たったそれだけのことですが、暮らしのストレスは大きく変わります。
夜中にトイレに行くときも、同じフロアで移動が完結する安心感。
階段の上り下りがないだけで、心理的な負担もぐっと減ります。
また、家事動線もシンプルになります。
洗濯や掃除、日々のちょっとした移動が短くなることで、暮らしに余白が生まれます。
そして何より、将来に対する不安が小さくなる。
これはとても大きな価値だと思います。
実は大事なのは「平屋」だけじゃない
ただ、ここで一つ大切なことがあります。
それは、「平屋にすればすべて解決するわけではない」ということです。
例えば、断熱や気密が不十分な家であれば、
平屋であっても冬のトイレは寒いままです。
- 夜中に寒いトイレに行くつらさ
- 部屋ごとの温度差によるストレス
これは階数の問題ではなく、住宅性能の問題です。
また、トイレの位置や間取りも重要です。
寝室から遠い位置にあれば、平屋でも移動は負担になります。
つまり本当に大切なのは、
- 上下移動がないこと
- 温度差が少ないこと
- 無理のない動線であること
この3つが揃ってはじめて、「暮らしやすい家」になるのだと思います。
K邸 さて、今回はどうすべきか
Kさんご夫婦のご希望の
- 冬でも寒くない家にしたい
- 二人暮らしなので、コンパクトでも住みやすい家にしたい
- 年齢を重ねても安心して暮らせる家にしたい
そういった思いの積み重ねの結果、
平屋は、その答えの一つとして、とても合理的な選択だと思います。
しかしながら、冷静に考えたとき、今の家を解体して、平家を建てるのは予算的にも厳しく、さらにいうなら、平家を建てれるほど敷地は広くありませんでした。
どちらかといえば狭小敷地になるため、一般的な平屋はちょっと難しいと判断しました。
そんな中で、現実性のある考え方は、3階建ての家において、2、3階はそのままに、1階をしっかり断熱をして、そこに生活の全てを集約するということです。
こうすれば、1階には日々の生活に必要な、最低限のものだけを持っていき、そうでないものは2階、3階に置いておくことができます。
狭小地での建物ですから、1階の面積も9坪ほどしかありません。その中で全ての生活をまかなうことができるかは、大きな問題ですが、2、3階が予備スペースとあるならば、やってみる価値はあると思いました。
テーマは「9坪の面積で、生活できるか」です。
果たして、9坪という限られた広さの中で、本当に快適な暮らしは実現できるのでしょうか。
単に「狭い家」になるのか、それとも工夫次第で「ちょうどいい暮らし」になるのか。
その分かれ道は、間取りや広さではなく、「考え方」と「設計」にあると感じています。
つまり、9坪という制約を受け入れながらも、
暮らし全体としては無理のない構成にする、という考え方です。
次回のブログからは、実際にどのような工夫をすれば、
9坪でも現実的に暮らしていけるのかを、具体的に見ていきます。
まとめ
平屋へのあこがれは、決して特別なものではなく、
日々の暮らしの中で感じる「ちょっとした不便」から生まれるものだと思います。
ただ現実には、敷地や予算といった条件があり、
誰もが簡単に平屋を選べるわけではありません。
だからこそ今回考えたのが、
「今ある家の中で、平屋のように暮らす」という発想です。
9坪という限られた面積の中で生活を完結させることは簡単ではありません。
それでも、2階・3階を“予備”として捉えることで、
暮らしの重心を1階に集めることは十分に可能だと感じています。
大切なのは、建物の形ではなく、
「どう暮らすか」という視点です。
平屋にすることだけが正解ではなく、
今の住まいをどう活かすかという選択も、
これからの住まい方のひとつの答えになるのではないでしょうか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
平屋へのあこがれも、
9坪で暮らすという考え方も、
どちらも「どう暮らしたいか」から生まれたものです。
家づくりは、必ずしも理想通りの条件が揃うわけではありません。
だからこそ、その中でどう工夫するかが大切だと思っています。
もし、同じように悩まれている方がいらっしゃれば、
一人で考え込まずに、気軽にご相談いただければ嬉しいです。
状況に合わせて、現実的で無理のない選択肢を一緒に考えていきます。

