60代からの家づくり|自宅で仕事を続けたい人のための間取りと設計ポイント

定年を迎えてからも、「自分のペースで仕事を続けたい」「好きなことを仕事にしながら暮らしたい」と考える60代のご夫婦が増えています。会社勤めを卒業しても、これまでの経験を活かして自営業を始めたり、趣味を仕事にしたりと、「仕事」と「暮らし」を自宅で両立するライフスタイルは、今や特別なものではなくなりつつあります。

しかし、いざその暮らしを実現しようとすると──
「どんな間取りなら、生活と仕事をうまく両立できるのか?」
「仕事場があると暮らしにくくならない?」
「将来的に身体が不自由になったときにも使いやすい家にしたい」

そんな疑問や不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

このコラムでは、60代から注文住宅を建てる方の中でも、自宅で仕事を続けたい方に向けて、「暮らしやすさ」と「働きやすさ」を両立するための間取りや設計の工夫をご紹介します。

目次

60代からの家づくりに求められるものとは?

仕事を続けたい60代が増えている理由

定年退職を迎えたあとも、「まだ働ける」「これからが本番」と感じる方は年々増えています。特に最近では、年金だけに頼らず、健康なうちは仕事を続けたいと考える60代の方が多くなっています。
また、今まで培ってきたスキルや経験、人とのつながりを活かして、自宅で小さな仕事を始める方、自営業や個人事業主として働く方も増加傾向にあります。

その背景には、「人生100年時代」といわれるように、定年後の暮らしが20年以上続くことが当たり前になった現代ならではの価値観があります。経済的な自立を続けたいという思いに加えて、「社会との関わりを持ち続けたい」「生きがいとしての仕事を続けたい」という心理的な側面も大きいのです。

今では「働く=会社へ通う」だけでなく、自宅の一角を仕事スペースとして使う“在宅ワーク型の働き方”が広く定着してきました。たとえば、こんなケースが考えられます。

  • 自宅で小規模なサロンを開業する
  • 趣味の工芸や絵画などを仕事にするアトリエスペース
  • コンサル業や士業など、打ち合わせや来客にも対応できるワークスペース
  • 夫婦で別々のワークスペースを持つセカンドライフ設計

このように、暮らしの延長線上に“仕事”を持つというライフスタイルは、60代の住まいづくりにおいてますます重要なテーマになっています。


暮らしやすさと働きやすさを両立させる家とは?

こうした働き方を前提とした暮らしでは、「生活のしやすさ」と「働きやすさ」のどちらも犠牲にしない住まいが求められます。
ただ広い家や性能が高い家というだけでなく、生活空間と仕事空間をどう区切り、どうつなぐかが重要なポイントです。

たとえば──

  • 生活空間と仕事空間をほどよく分ける間取り
     → 自宅にいながら気持ちを切り替えられるワークスペースを設けることで、集中力が高まります。
  • 来客導線を考慮した玄関まわりの工夫
     → 生活感を見せずに仕事関係のお客様を迎えるためのサブ玄関や土間スペースなども有効です。
  • 将来を見据えたバリアフリー設計
     → 長く安心して暮らせるように、段差のない床や手すりの設置も、早めの検討がおすすめです。
  • 空調・音・明るさなどの快適性
     → 長時間の在宅ワークにも疲れにくく、心地よく過ごせる環境づくりが大切です。

このように、自宅で仕事を続けるライフスタイルには、「住まいとしての快適さ」と「職場としての機能性」をバランスよく設計することが鍵になります。

自宅で仕事をするなら押さえたい間取りの考え方

自宅を仕事場として使う場合、「どこに、どのように仕事スペースをつくるか」は住まい全体の使い勝手を大きく左右します。
暮らしの場と仕事の場が同じ建物内にあるからこそ、間取りや動線に配慮することが、快適な在宅ワーク生活を続けるポイントになります。

ここでは、仕事スペースのタイプ別の特徴と、動線の考え方について詳しく見ていきましょう。


仕事スペースは独立型?一体型?

タイプ別のメリット・デメリット

自宅で仕事をする際のワークスペースのつくり方には、大きく分けて2つのタイプがあります。それぞれの特徴を理解し、自分の働き方や家族構成に合ったスタイルを選ぶことが重要です。


① 独立型ワークスペース(仕事用の部屋を分ける)

特徴:生活空間とは別の部屋に仕事スペースを設けるスタイル。書斎や仕事部屋、アトリエなど。

メリット

  • プライベート空間としっかり分けられるため、集中しやすい
  • 電話・Web会議・来客対応など、外部との接点にも対応しやすい
  • 音や生活感の干渉が少ないため、専門職・士業・自営業者に向いている

デメリット

  • 部屋数が増えるため、延床面積や建築コストが増えることがある

② 一体型ワークスペース(LDKの一角に設置)

特徴:リビングやダイニング、または寝室の一部など、生活空間の中に仕事スペースを組み込むスタイル。

あるいは、2階にロフト的なスペースを設けて、そこを仕事場にすることも考えられます。

メリット

  • コンパクトな家でも設置しやすく、空間を有効活用できる
  • 家族の気配を感じながら働けるので、気軽に作業ができる環境
  • コストを抑えやすい

デメリット

  • 家族の生活音や動きが気になり、集中しにくいことがある
  • 来客が多い業種や、秘密保持が必要な職種には不向き
  • 仕事と生活の切り替えが難しく、オン・オフが曖昧になりやすい

ご自身の仕事の内容や、1日の過ごし方、家族との関わり方に合わせて、無理のないスタイルを検討てみてください。


動線をどう分ける?生活と仕事の切り替えをスムーズに

在宅ワークを快適に続けるうえで意外と重要なのが、生活空間と仕事空間をどう“行き来”するか=動線の設計です。
暮らしの中に仕事があるからこそ、「今は仕事」「今はオフ」というメリハリがあることが、精神的なストレスを軽減するカギになります。

以下のような間取りの工夫が、オン・オフの切り替えや来客対応をスムーズにしてくれます。


▸ 来客導線を分ける

  • お客様を玄関から直接仕事スペースに案内できる配置にする
    → 生活空間を通らずに来客対応が可能。

▸ ワークスペース専用の出入口・導線をつくる

  • サブ玄関や勝手口を設けて、仕事と生活の入口を分ける
    → 「仕事の時間」と「家族の時間」を無理なく切り替えられます。

▸ 水まわり動線を遮る

  • 仕事スペースへキッチンや洗面所を通らずにアクセスできるように配置する
    → 家族の生活動線と干渉せず、集中しやすくなります。

動線の整備は、生活ストレスの軽減だけでなく、長く快適に働き続ける工夫としても大切です。
60代からの家づくりでは、将来の身体の変化も見据え、バリアフリーや最短動線の設計も一緒に検討しておくと安心です。

快適な自宅兼仕事場にするための設計ポイント

自宅を職場として活用する場合、「快適さ」は暮らしだけでなく、仕事の生産性や継続性にも直結します。
とくに定年後に自宅で仕事を始める60代の方にとっては、無理なく働ける空間づくりが、長く健康に自営業を続けるための重要な要素になります。

ここでは、在宅ワークや小規模な自営業に適した、具体的な設計の工夫をご紹介します。


1. 自然光や通風を取り入れた、心地よいワークスペースに

仕事スペースにおいて、自然光や風通しの良さは快適性と集中力の両面で大きな効果があります。

  • 大きな窓を南向きや東向きに設けることで、明るく開放的な空間に
  • 通風を確保するための窓の配置(対角線上の開口部など)を意識する
  • 長時間の作業でも目が疲れにくく、気分もリフレッシュしやすくなります

また、照明・空調も重要です。リビングや他の居室と同じ仕様ではなく、

  • 仕事スペースだけ個別に照明計画や空調設定をできるようにしておく
  • 時間帯や季節ごとに調整しやすい設計(日射遮蔽・断熱・温度分布)にする

ことで、一年を通して快適な作業環境を保つことができます


2. 音やプライバシーに配慮した空間設計を

自宅内で仕事をするうえで、音やプライバシーの確保はとても大切です。
家族の生活音や周囲の音が気になると、集中できず仕事効率にも影響が出ます。

防音・吸音の工夫として:

  • 壁や建具に吸音・防音材を使用(グラスウール、遮音シートなど)
  • 仕事スペースを家の中心ではなく端の方に配置し、音の干渉を避ける
  • 書斎ドアを防音性のある建具に

といった工夫が、外部にも家庭内にも音を漏らさない設計につながります。

また、オンライン会議などが多い業種では、壁面に吸音パネルを設置するだけでも音の反響を抑え、聞き取りやすい環境を作ることができます。


3. 来客や打ち合わせにも対応できる空間づくり

個人事業主の方の中には、お客様や取引先を自宅に招く機会があるケースも多いでしょう。
その場合、「家に招く」ではなく、“仕事で応対する空間”としての設計が必要です。

玄関まわりに来客対応のスペースを設ける

  • 玄関の横に土間スペースを設置
     → 小さな応接室・打ち合わせスペースとして活用可能
     → 靴を脱がずに対応できると、オフィス的な雰囲気に
  • 仕事スペースを玄関から直通に配置する
     → 家族の生活空間を通らずに案内でき、プライバシーを守れる
  • 造作家具や収納で空間を仕切る工夫
     → 家全体はコンパクトでも、仕事用スペースに“独立感”を演出できる

これにより、住宅でありながら、小さなオフィスや店舗のような印象を持たせることも可能です。



こうした配慮は、60代からの自宅ワークを「無理なく・心地よく・長く続ける」ために、とても重要なポイントです。

60代以降の暮らしを見据えた住宅性能の工夫

60代で家を建てるなら、今の暮らしやすさだけでなく、これからの10年、20年をどう快適に暮らせるかも大切な視点です。
とくに定年後に在宅で仕事をする方にとっては、住まいの快適性=仕事のしやすさ・健康の維持にもつながる重要な要素です。

ここでは、60代からの家づくりにおいて取り入れたい住宅性能の工夫を、具体的にご紹介します。


1. 高断熱・高気密で体にも家計にもやさしく

年齢を重ねるにつれ、体温調節機能が低下しやすくなるため、夏の暑さ・冬の寒さは思った以上に身体にこたえるものです。
住宅の基本性能として 「断熱性」と「気密性」をしっかり確保しておくことは、健康的でエネルギー効率の良い暮らしを実現する第一歩です。

高断熱・高気密がもたらすメリット:

  • 冷暖房の効率が良くなり、光熱費を節約できる
  • 家全体の温度差が少なく、ヒートショックのリスクが減る
  • 仕事中も快適な温度が保てて、集中力を保ちやすい
  • 室内の騒音も軽減され、静かなワークスペースになる

断熱材や窓の性能、換気システムなどをしっかり選び、建築時から性能にこだわることが大切です。


2. バリアフリー設計で安心・安全に暮らす

60代の今は元気でも、70代・80代と歳を重ねたとき、小さな段差が転倒の原因になることも
将来に備えて、あらかじめバリアフリーを意識した設計にしておくことで、住み替えの必要がなく、安心して住み続けられる住まいになります。

バリアフリーの具体例:

  • 室内の床段差をなくす(フラットフロア)
  • トイレ・浴室・廊下に手すりを設置(または下地だけでも施工)
  • 階段の勾配をゆるやかにし、将来的に昇降機も設置できる設計に
  • 引き戸を多用し、開け閉めを楽にする

こうした配慮は日常の安全性だけでなく、介護が必要になったときにも効果を発揮します。


3. 可変性のある間取りで将来に備える

60代からの家づくりでは、「今」だけでなく将来の変化に柔軟に対応できる間取り設計も重要です。
自宅で仕事をしている方も、10年後には仕事を引退するかもしれません。子ども世帯と同居する可能性もゼロではありません。

可変性のある設計アイデア:

  • 間仕切りで2部屋→1部屋に、またはその逆にも変更可能
  • 将来の寝室候補を1階に確保しておく
  • 仕事スペースを趣味室やゲストルームとして転用できる設計に

こうした設計により、「暮らし方の変化=家の使い方の変化」に対応でき、住み替えの必要も少なくなります。


性能面は「見えないけれど、暮らしの質に直結する」

間取りやデザインは見た目で判断しやすいですが、断熱・気密・バリアフリーといった住宅性能は住んでみて初めて違いを実感する部分です。
だからこそ、60代からの家づくりでは、目に見えない快適さ・安心感に投資することが、将来の安心につながります。

よくある質問|定年後に家を建てる際の不安と対策

Q1. 60代でも住宅ローンは組める?資金計画のポイント

定年後の家づくりで最も多い不安のひとつが「住宅ローンが組めるのか?」というお金に関する問題です。

60代でも住宅ローンは組めます

近年では、高齢者向けの住宅ローン商品も増えており、60代でも住宅ローンの利用は可能です。ただし、注意点もあります。

60代の住宅ローンにおける主な注意点:

  • 完済年齢の制限がある(例:80歳までに完済が条件)
  • 返済期間が短くなり、月々の返済額が多くなる傾向
  • 健康状態によっては団体信用生命保険の加入が難しい場合も

そのため、借入額や返済期間を慎重に設定することが重要です。

資金計画で意識したいポイント:

  • 退職金や預貯金、年金見込みなどをベースに無理のない借入額を設定
  • 住宅ローンと現金支出のバランスをとる(例:自己資金3割以上)
  • ローンを組むなら、将来的に収入が見込める「自営業の継続」などを考慮
  • 修繕費や医療費などの将来の支出も見込んだ余裕ある資金計画

Q2. 老後に家を建てるのは遅くない?

「今さら家を建てても…」「子どもも独立したし」と、60代での家づくりをためらう方も多くいらっしゃいます。
しかし、老後の暮らしに合った住まいに整えることは、日々の快適さと将来の安心感に大きく関わる重要な選択です。

60代からの家づくりは、考え方によっては“最適なタイミング”とも言えるかもしれません

60代は、ライフスタイルや価値観が一段落し、
「これから自分たちがどう暮らしたいか」が明確になる時期。
このタイミングで家を建てることには、以下のようなメリットがあります。

老後の家づくりのメリット:

  • 現在の健康状態や暮らし方に合った家をつくれる
  • 高断熱・高気密・バリアフリーなど、将来に備えた設計が可能
  • 在宅ワークや趣味のスペースなど“自分たちらしい暮らし”を実現できる
  • リフォームでは実現が難しい性能面も一から整えられる

また、賃貸では得られない安心感や、自分たちの老後に必要な設備・性能を備えられる点も、大きな利点です。

「第二の人生を豊かにする家」は、人生の大きな味方に

働き方や家族との関係が変わっていく中で、自宅が「暮らしの場」であると同時に、「仕事場」「交流の場」「癒しの場」となることもあります。
そんな多目的な空間を、自分たちの希望通りに設計できるのは、注文住宅ならではの魅力です。

「遅いかもしれない」と感じるよりも、「今がちょうどいい」と捉え、これからの暮らしに合った住まいづくりを検討するもの、なにか張り合いがでて、今後の人生が楽しくなりますよね。

まとめ|60代からの家づくりは「仕事」と「安心」の両立を

60代という人生の節目に家を建てるという決断は、単なる住み替えではありません。
それは、「これからの暮らしをどう楽しみ、どう働き、どう生きるか」を形にする、大きな転機でもあります。

特に、定年後も自営業や在宅ワークなどで仕事を続けたいと考えている方にとっては、暮らしと仕事を両立できる住まいを整えることが、生活の質を大きく左右します。

働きやすく、暮らしやすい家とは?

  • 集中できるワークスペース
     独立型・一体型のどちらが自分に合うかを見極め、静かで落ち着いた空間を確保することがポイントです。
  • 動線の工夫でオン・オフを切り替える
     来客導線やプライベート空間との区切りを意識すれば、仕事と生活のバランスが取りやすくなります。
  • 音やプライバシーへの配慮
     防音対策や空間の配置に工夫を凝らせば、家族にも仕事にも負担の少ない環境が整います。

長く快適に暮らすための住宅性能も忘れずに

高断熱・高気密な住宅性能は、冷暖房に頼りすぎずに快適な温熱環境を実現するだけでなく、光熱費の削減にもつながります。さらに、バリアフリー設計や、ライフスタイルの変化に対応できる可変性のある間取りを取り入れることで、将来も安心して住み続けられる住まいになります。

“仕事ができる家”は、第二の人生の舞台に

60代からの家づくりには、現役時代とは違った「自分らしさ」や「自由な暮らし」を実現する力があります。
暮らしの中に仕事が溶け込み、趣味や交流も楽しめるような家は、生きがいと安心が共存する“人生の拠点”となります。

今だからこそ、自分のための、夫婦のための家を。
将来を見据えた家づくりで、「仕事」も「暮らし」も、もっと心地よくしていきましょう。

「自宅で仕事をしながら、安心して暮らせる家にしたい」
そんな想いをカタチにするには、ご家族の暮らし方に合った丁寧な設計が大切です。
足立和太建築設計室では、60代からの住まいづくりに寄り添い、
自宅での働き方や将来の安心まで見据えたご提案をしています。

まずは、小さなご相談からでも構いません。

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