54:狭小住宅 外観デザインのポイント
都市部の人気住宅地は土地代がとても高価です。
そのため、多くの住宅用地が20坪~30坪程度の広さになっています。
特に20坪前後の敷地では、多くの家が3階建ての狭小住宅になってしまいます。
さらに、その敷地の中に駐車場までつくろうと思うと、自由度がなくなり、どの家も似たような外観になってしまいます。
下の写真はよくある名古屋市内の住宅地の風景です。
これらの写真を見てみると、3階建ての住宅のほとんどの家が、1階の一部をくりぬいて駐車場とし、物干し用のベランダが壁から突き出ています。
そして外壁は窯業系サイディングで、窓はほとんどが引き違い窓となっています。
こうなると、どうしても似たような外観になってしまいます。
こうした風景は市内のあちこちで見られます。
それが悪いわけではありませんが、もう少し外観のデザインに工夫ができないものか、表情をもう少し出せないものかと思います。
今回は、S邸という私の実作の中で外観デザインで工夫をしたことをご説明したいと思います。
目次
■狭小住宅 外観デザインのポイント
都市部の住宅で外観が似てしまう理由
1)防火指定があるため
名古屋市内では、ほとんどの地域の防火指定が準防火地域もしくは防火地域となっているため、外壁、軒天、サッシに防火上の条件が付きます。
(条件が付くのは延焼ラインにかかる部分となりますが、延焼ラインとは道路中心線及び隣地境界線から1階では3m、2階以上では5mの範囲をいいます)
外壁
敷地が広い場合は別ですが、20坪、30坪程度の敷地の場合は、外壁のほとんどが延焼ラインにかかってしまいます。
そうなると、外壁の仕様を防火構造としなければなりません。
防火構造とは、建築物の周囲で発生する通常の火災による延焼を防ぐために外壁に必要とされる構造のことです。
そのため、多くの場合が、防火構造の認定のとれた既製品の窯業系サイディングを使うことになります。
基本的には自然素材である木の外壁は使えません。
軒天
外壁と同様に軒天も、延焼ラインにかかれば防火構造が要求されますので、木は使えず、認定のとれた材料を使うことになります。
サッシ
サッシ(開口部)においても、延焼ラインにかかれば防火設備の認定のとれたものを使わなければなりません。
防火設備の認定のとれたサッシは、いろいろありますが、特に南側など大きいサッシを使いたい場合は、引き違いサッシに限られてしまいます。
そのため、ほとんどの家で南側のサッシは引き違いサッシになっています。
2)敷地間口が狭いため
敷地が狭小のため、間口が狭く駐車場はどうしても1階の建物の一部をくりぬいて、設置するしか方法はありません。
そのため、多くの住宅が大きく口を開いたようなデザインにせざるを得ないわけです。
外観デザインのポイント
それでは、似たような外観にならないためにどうしたらよいかご説明します。
基本的には、使用する材料、サッシの選択できる範囲を広げて、デザインの自由度を増すことが大切です。
S邸では、施主の要望を踏まえて次のように考えました。
1)明るい部屋をご希望のため、南側に大きな開口部を設け、デザイン性、気密性を考え引き違いサッシは避ける
2)極力自然素材を使いたいというご希望のため
軒天を天然木(レッドシダー)張りとする
玄関ドアを木製にする
手摺を天然木(セランガンバツ)とする
3)ベランダは必要だが、デザインに取り入れ、取って付けたようにはしたくない
これらの要望の中で、引き違い窓以外で大きな窓をつくること、天然木を張ることなどは、防火指定のある地域では普通に設計したのでは実現できません。
これらを実現するためには、設計上のいくつかのポイントがあります。
1)袖壁で延焼ラインをガードする
せっかく敷地が南に面していても、延焼ラインに開口部がかかってしまうと、サッシは防火設備の認定のとれたものしか使えません。
特に掃き出しの大きな窓は、引き違い窓しか選択肢がなくなってしまいます。
そこで、下図のように袖壁を設けることで、延焼ラインからサッシを外すようにします。
そうすることで、防火設備の認定のサッシにする必要がなくなり、選べるサッシの選択肢が広がります。
延焼ラインは隣地境界線から5mの範囲ですが、上図のように袖壁を設けると、袖壁で延焼ラインがガードされます。
図面上の赤いラインの下部の黄色いマーカー部分にサッシが入ると、防火設備にする必要が出てきます。
今回のケースでは、サッシは延焼範囲の奥にありますので、サッシについて何の制約もかかってきません。
そこで、今回は開口幅の広い両片引き窓にしました。
2)小屋裏を防火構造の壁で区画する
施主要望で自然素材を使うために、軒天を天然木のレッドシダー張りにしたいと考えました。
そのためには軒天に工夫をしなければなりません。
今回はその対策として、小屋裏を下図のように防火構造の壁で区画しました。
これにより、建物本体の小屋裏への延焼を防げるため、軒裏の防火性能は不問になります。
こうして、軒天の天然木張りが可能となりました。
3)手すりは木製にする
手摺については、防火上の規制がありませんので、木を使うことが可能です。
メンテナンスの問題もありますので、誰にでも木をすすめるわけにはいきませんが、今回のようにクライアントの理解があれば、木製にすることで他とは異なる表情ができます。
S邸では、目隠しを兼ねて、ルーバー上の木製手すりとしました。
4)ベランダはデザインに組み込む
街中の狭小住宅で、比較的多いのが、外壁からつき出たベランダです。
最近は室内干しが増え、ベランダを付けないお宅が増えているようです。
今回のクライアントは洗濯物は日光で乾かしたいというベランダ派です。
さて、どのようにしてデザインに組み込むか?
今回は、延焼ラインをガードするために、建物の両サイドに袖壁を設けました。
これはおおきなデザイン要素です。
これを活かさない手はありません。
そこで、この袖壁をぐるりと3方囲って、ゲートのようにしました。
これにより、ベランダはこのゲートに挟まれるような形になり、取ってつけたようなカッコウにはなりません。
さらに、駐車場においても、ゲートの中に設けるため、単純に口を開けたようなデザインを避けることができました。
また、玄関の扉も、延焼ラインを外れているため、木製にできました。
そして、今回の場合は外壁はどうしてもサイディングにせざるを得ません。
ただ、多くの家のサイディングがタイル柄のような柄物になっています。
タイル柄などはどうしても本物とは違い、好きではありませんので、ここではシンプルにプレーンなサイディングを採用しました。
いかがでしょうか。
このようにいくつかのポイントを挙げましたが、建築的に工夫することで、天然木を使うことが可能になり、開口幅の大きなサッシを使うことができました。
他とは少し違った建表情の建物を造ることができたのではないかと思います。
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