55:断熱グレードで冷暖房費はどう変わる?
最近の猛暑の夏は夜も昼もエアコンなしでは暮らせません。
冬は冬でやはり寒いです。
日本の住宅は寒いとよく言われます。
確かに、30年以上前に建てられた家の多くは、断熱材が申し訳程度に入っているか、あるいは全く入っていません。
そのため、とても寒いです。
一方、最近の新しい家は、少なくとも国の推奨する省エネ基準(断熱等級4)は満たしているものが多いのではないかと思いますが、寒さはずいぶんと改善されていると思います。
それでは、夏と冬の冷暖房費は、こうした断熱のグレードによってどれほど違うのか。
今回は、新住協のQPEXというソフトを使ってシミュレーションしてみたいと思います。
目次
■断熱グレードで冷暖房費はどう変わる?
設定条件
S邸(木造・3階建て・面積30坪)をモデルにして、次の3つのケースでシミュレーションしてみます。
- 断熱無し
- 断熱等級4(省エネ基準)
- 断熱等級6
なお地域は名古屋市の6地域とします。
設定条件は
- 冷房時期は5月中旬から9月末まで、暖房時期は11月中旬から4月中旬まで
- 設定温度:夏27℃、冬20℃
- 運転時間:全館連続運転
シミュレーションの内容
今回のシミュレーションの項目は冷暖房費だけでなく、次の項目も行ってみます。
- 各月の平均外気温にたいして、自然室温の変化
- 室温分布イメージ
- 冷暖房費(冬季・夏季合計)
シミュレーションの結果
シミュレーション結果の見方
- Q値:熱の逃げやすさを床面積あたりで表した指標で、値が小さいほど断熱性が高い
- UA値:建物の外壁、窓、屋根、床などの外皮部分からどれだけ熱が出入りするかを表し、値が小さいほど断熱性能が高い。
- ηAc値:冷房期の平均日射熱取得率で、この値が小さいほど住宅内に入る日射が少ない。
1)各月の平均外気温と平均室温のグラフの意味
- 緑色の折れ線グラフ:月別の平均外気温
- オレンジ色の折れ線グラフ:月別の自然室温で、暖冷房を行わなくても、日射熱や生活熱によって自然に上昇する室温
- グラフ上、ピンク色のべた塗り部分は暖房の設定温度と室温の差で、この面積が暖房する必要量を示し、水色部分は冷房の必要量をしめす
2)室温分布イメージ
- 冬季室温予測で、6:00~23:00まで暖房し、その後停止したときに外気温がー1.5℃のときの翌朝5:00の各室温予測
3)冷暖房費
- 全館を連続運転で冷暖房したときの年間の冷暖房費
1)無断熱の場合
省エネ基準の家のUA値は0.87なので、無断熱の家のUA値3.05がいかに大きいかよくわかります。
無断熱の家は冬季には、外気温より平均3℃~4℃程度室内のほうが暖かく、夏季は外気温より平均3.6℃~4℃程度涼しい。
- 左側の家の図は省エネ基準住宅(断熱等級4)の場合の室内温度は前日の23:00に暖房を停止して室温が20℃の時、翌朝5:00に室温が何度になったかを示します。どの部屋も10度以上を保っています。
- 右の家の図は無断熱の場合を示します。どの部屋も3℃以下で、せっかく暖房しても翌朝にはしっかり冷えてしまい、いかに寒いかがよくわかります。
一般的に家庭の冷暖房費は、電気代の20%」から30%程度ですから、この20万円を超える冷暖房費はいかに高いかがわかります。
もっとも、無断熱の家は、全館冷暖房などはせず、必要な部屋だけを冷暖房しますから、こんな金額にはなりませんが、冷暖房していない廊下、トイレ、洗面脱衣などは非常に寒く、ヒートショックの危険性があります。
2)省エネ基準住宅(断熱等級4)の場合
省エネの基準となる断熱等級4のUa値は0.86です。
断熱等級4の家は冬季には、外気温より平均4.5℃~5℃程度室内のほうが暖かく、夏季は外気温より平均4.3℃~4.7℃程度涼しい。
無断熱に比べるとずいぶんと安くなっています。
3)断熱等級6の場合
断熱等級4の家は冬季には、外気温より平均5.7℃~6.1℃程度室内のほうが暖かく、夏季は外気温より平均5.5℃~5.8℃程度涼しい。
省エネ基準住宅よりさらに4割ほど安くなっています。
この金額で、連続運転できるわけですから、水分と快適な生活が送れます。
前日の23:00に暖房を停止しても、翌朝5:00に外気がー1.5℃でも室内温度が15℃程度を保ってくれるのは大変ありがたいですね。
まとめ
今回、無断熱、断熱等級4,断熱等級6の3つのパタンでシミュレーションしました。
断熱等級を上げても、自然室温の変化はそれほど大きく差はありませんでした。
一方、冷暖房した場合は、断熱等級が高いほど、エアコンを停止しても、室温を保ってくれる割合が高いです。
これは断熱によって、家全体が魔法瓶のようになっているため、当然ながら断熱等級が高いほど熱損失が少ないからですね。
また、冷暖房を連続運転しても、熱損失が少ないので、断熱等級が高いほど、冷暖房費は低く抑えられます。
今後、家をつくるのであれば、やはり断熱等級6は目指したいところです。
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