42:その間取り大丈夫? 安全な間取りの見分け方-1(壁・柱直下率とは)
「住宅瑕疵保証機関」の保証制度を利用した住宅の中で、構造的な問題で2階の床梁のたわみが原因であり事故事例が増加しているそうです。
この問題の8割が意匠設計や架構設計によるものというデータがあります。
架構設計とは、木造住宅の柱や梁などの組み方の設計のことを指しますが、いずれにしても設計上の問題が原因ということです。
昔の建物は大工の棟梁が、間取り(平面)考え、架構設計も同時進行で考えていました。
しかし、今ではそうした大工さんも減ってしまい、設計と施工の分離が進み、設計者が未熟な場合は「間取り」だけを考え、「架構」のことをあまり考えていないというケースも多いようです。
未熟といっても立派に建築士の免許を持っている設計士です。
架構を考えた間取りでなければ、無理をした架構設計をすることになります。
こうした現状、つまり、架構的に無理をした設計が先ほどのような、床梁のたわみといった事故事例を引き起こしている一因にもなっているわけです。
今回は、設計者が未熟かどうかは別として、提案された間取り(平面図)が、架構的に(構造的に)無理をしているかどうかをチェックする方法について解説していきたいと思います。
■その間取り大丈夫?安全な間取りの見分け方
建築士だからといって設計がうまいわけではない
医者とか、弁護士など専門の知識を持って仕事をされている方がどれほど優秀なのか、あるいはそうではないのかは、素人である我々から全く想像ができません。
それと同じように、我々建築士もたとえ1級建築士の資格があったとしても、設計ができるかできないか、うまいか下手か、全く千差万別なのです。
それが証拠に巷を見渡してみても、何を考えて設計したのかわからないちょと残念な(失礼)住宅が建っているかとおもえば、外構から建物本体までしっかりデザインされ、見とれてしまうような住宅も建っています。
確かに設計には、安全性、デザイン性、快適性が問われ、それらをすべてバランスよく設計することが要求されるところですが、それらの資質ををすべての建築士が兼ね備えているわけではありません。
当然、安全面に無頓着というか、無理解な建築士もいます。
今回は特にこの安全性に焦点を絞って解説したいと思います。
無理な平面プラン
本来設計とは、平面計画と構造計画(架構設計)を同時に検討していきます。
鉄骨造とかRC造であれば。構造設計事務所が設計に参加しますので、構造的な問題が起きることはまずありません。
一方、木造住宅では専門の構造設計事務所もありますが、多くの設計事務所は自社で構造設計をしたり、意匠設計だけをし、構造は施工時に材木を扱うプレカット業者に一任してしまう事務所もあります。
問題が発生するとすれば、プレカット業者に架構設計を一任してしまうケースです。
ただ、この架構設計についてですが、実は基本的なルールが確立しているわけではなく、これを学ぶ実務的な参考書もほとんど見当たりません。
こうした中で、建築士はあの手この手で架構法を勉強しているわけです。
架構に勉強熱心な設計者は良いのですが、そうでない設計者はプレカット屋さんに一任してしまうのでしょう。
さて、ここで問題なのは、設計士から渡された図面に架構的に無理な要素がある場合です。
プレカット屋さんは、設計士からわたされた平面図に沿ってしか、架構設計ができません。
本来、平面計画と架構設計を同時に検討していれば、架構的にまずいプランであれば、そらが判明した段階ですぐフィードバックします。
しかし、プレカット屋さんが平面をもらうのは、設計がが完了してからですし、ましてや設計士に対して、変更してくれとは立場的に言えないので、そのまま架構設計するしかないのです。
もし、設計士の計画した平面に無理があれば、架構設計も無理した設計をすることになります。
このようなときに、床梁がたわむような事例につながるのでなないかと思われます。
それでは、架構的に無理をした間取り(平面)かどうかの見分け方について解説します。
下記の2つの要素で判断します。
1)壁直下率
2)柱直下率
まず、今回は、この「壁直下率」と「柱直下率」について考え方をご説明します。
今回説明の参考とする住宅は木造2階建てで、下図のような平面計画です。
一般的に木造住宅は、柱を910mm(91cm)ごとに建てていきます。
そのため、上図のように910mmピッチで縦横にラインを入れると図面が見やすくなり、上下階の壁の位置も比較しやすくなります。
1)壁直下率
さて、ここで「壁直下率」という用語が出てきましたが、これは2階の間仕切り壁のうち、どれだけの壁が1階の壁と重なっているかを見る指標です。
建物の構造とは、水平荷重と鉛直荷重に抵抗させるように考えられています。
そして、水平荷重とは、地震の揺れ(地震力)や、台風などの風(風圧力)による力のことですが、水平荷重に抵抗するのが壁(耐力壁)の働きとなります。
例えば、地震力は屋根や床に大きな力が加わり、屋根面・床面をを伝って、壁に流れ、基礎地盤に流れます。
このとき、2階の壁と1階の壁の位置がそろっていれば、力はすんなりと基礎まで伝わります。
もし、2階の壁と1階の壁の位置がずれていると、2階の壁を支えている梁に力が加わり、梁がたわんでしまいます。
木造では、間取りを考えるときに極力2階の壁と1階の壁を一致させるように考えていきます。
どれだけ一致出来ているかを見る指標が「壁直下率」なのです。
それでは実際に参考図の住宅で、「壁直下率」を見ていきましょう。
その前に、先ほど木造は910mmピッチで縦横にラインを入れるとわかりやすいとご説明しましたが、さらにそのラインに上図のようにX方向に「い、ろ、は、に、・・・」、Y方向に「一、二、三・・・」のように文字と数字を入れるともっとわかりやすくなります。
これを通り符号といいます。
例えば、1階の一番右下の柱を指すときは、「いー八」と指定することができます。
覚えておいてください。
さて、直下率の出し方は次の手順で行います。
1)1階平面図に、2階の外壁線と間仕切線にあたる部分を赤色のマーカーで写します。
2)1階平面図の外壁線と間仕切線を青色マーカーでなぞっていきます。
こうすると、2階の間仕切線の下に1階間仕切線がある部分は、赤色を青色が重なって紫色になります。
ここで注意したいのは、2色が重なっていない赤ラインの部分です。
この赤来の部分は、1階に間仕切が無いことを意味します。そのため、、梁などで2階間仕切を支えなくてはならないということがわかります。
そして、「壁直下率」は下記のように計算します。
壁直下率=1,2階で一致する間仕切線の長さ/2階の間仕切線の長さ
長さは910mmを1単位とします。
例えば、平面図で一番右の列ですが、通り符号でいうと「い通り」にあたりますが、この列の壁直下率は、910mmのグリッドが7つあり、すべての壁が紫なので7/7となります。
「四通り」では、2階の間仕切線の長さは10で、1,2階一致する間仕切線の長さは2なので、壁直下率は2/10となります。
このような計算を各通りで行い、X方向、Y方向、各々合算します。ここでの注意は算数の分数計算ではなく、分母も分子もそのまま合算します。
そうすると、X方向は22/35.7、Y方向は27/33となります。
そして、この2つをさらに合算すると、
22+27/35.7+33=49/68.7=71.3%となります。
この71.3%がこの建物の「壁直下率」となります。
この直下率という考え方は、法律等で規制されているものではありませんが、数値的には「壁直下率」は60%の確保が望ましいとなっています。
今回のこのサンプル図面では壁直下率が71.3%確保できていますので、OKということになります。
ただ、もう少し注意深くみますと、ほとんどの2階建ての住宅でいえることですが、2階の外周の壁と1階の外周の壁はほとんどの場合がそろっています。
そのため、この外周の壁によって「壁直下率」の数値が上がっているとも言えます。
2階建ての住宅で、注意すべきは、内部の間仕切壁がいかに2階と1階とでそろっているかですから、「壁直下率」も外周壁を含めず、内部壁だけで出してみます。
そうすると数値は
X方向:6/15.7
Y方向:13/19
合計:19/34.7=54.7%
となります。
ちょっと数字が悪くなりましたが、この内部だけの計算で「壁直下率」60%を目指したいものです。
この数値が著しく悪い場合は、間取りを再検討する必要があるということになります。
次のもう一つの要素「柱直下率」についてです。
2)柱直下率
さて、ここで「柱直下率」という用語が出てきましたが、これは2階の柱のうち、どれだけの柱が1階の柱と重なっているかを見る指標です。
壁直下率のところで、建物の構造とは、水平荷重と鉛直荷重に抵抗させるように考えられていますとご説明しましたが、柱はこの鉛直荷重を支えます。
屋根の荷重を受けた2階の柱は、すぐその下の同じ位置に1階の柱があれば、そのままスムーズに基礎に荷重が伝わります。
もし、2階柱の下に1階の柱が無い場合は、その2階の柱を受ける梁に荷重の負担がかかります。
木造では、耐力壁と同様に柱の位置も極力2階と1階で一致させます。
そして、どれだけ一致出来ているかを見る指標が「柱直下率」なのです。
この「柱直下率」は「壁直下率」の柱編といえますが、計算方法は同じ考え方をします。
「柱直下率」の計算の手順
1)壁直下率の1階平面図に、2階の柱の位置に、赤丸(〇)を付けます。
2)2階の柱位置、つまり先ほど赤丸を付けた位置で1階の柱がある部分を青く塗りつぶします。
この塗りつぶした柱は、2階柱と1階柱の位置が一致していることを示します。そして赤丸のみの部分は2階柱の下に1階の柱が無いことを示します。
こうすると、2階に柱があって、1階に柱がない部分がすぐわかります。
この部分は、2階柱の荷重が、その柱を支える梁に伝わり、梁を通じて最寄りの柱から基礎へと荷重が伝わることになり、梁に負担がかかることになります。
図面は下図のようになります。
さて、柱直下率ですが、壁直下率と同様の算定式となります。
柱直下率=1,2階で位置が一致する柱の数/2階柱の数
四通りについてみてみます。
赤丸(〇)は4本、青塗は4本あり、合計は8本です。この8本は2階の柱ですから、
柱直下率=4/8となります。
全ての通りを同様に算定したものが上図です。
壁直下率と同様に、分子どうし、分母どうしを合計すると、
柱直下率=28/40=70%
となります。
この柱直下率は数値上は50%以上が望ましいとされています。
このサンプルの数値はOKですが、壁直下率でご説刑したように、柱直下率も2階の外周の柱と1階の外周の柱はほとんどの場合がそろっています。
そのため、この外周の柱によって「柱直下率」の数値が上がっているとも言えます。
2階建ての住宅で、注意すべきは、内部の柱がいかに2階と1階とでそろっているかですから、「柱直下率」も外周壁を含めず、内部壁だけで出してみます。
そうすると数値は
6/12=50.0%となります。
少し数値は下がりましたが、内部の柱直下率もOKということになりました。
今回の計画案は、壁直下率、柱直下率ともに、比較的良い結果となりました。
それは、今回の平面計画自体に無理がなかったということになります。
今回は、無理をした間取りかどうかの見分け方で、「壁直下率」と「柱直下率」の考え方のご説刑をしました。
次回は、無理をした間取りの場合、どのような結果になるかのご説明をしたいと思います。
まとめ
木造の間取りでは、壁と柱は極力2階と1階で一致させるように計画します。
この、壁と柱がどれだけ一致しているかを見る指標が
1)壁直下率
2)柱直下率
です。
目標数値は。壁直下率で60%以上、柱直下率で50%以上となります。
これより数値が低いと、間取りのどこかに無理があるということで、梁などの部材に余計な負担がかかっているということになります。
その結果、2階の床・梁がたわむという事故につながっていくことが考えられます。
次回は、無理をした間取りの場合の壁直下率、柱直下率についてみてみたいと思います。
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