26:土地購入に失敗しないためのチェック事項(法規編)
家づくりには、まずは土地が必要ですよね。
あるいはもともと住んでいて、その土地に建替えのケースもあることでしょう。
実はこれら土地にはいろいろな法規制だったり、前面道路の状況、インフラの状況、敷地特性などによって、建てられる建築の条件、あるいは建築コストが変わってきます。
特に、土地を新たに購入する場合は、事前にこうした条件を把握しておく必要があります。
購入してから、しまったということがないように、今回のコラムはこうした土地にまつわる様々なチェック事項をまとめてみたいと思います。
主なチェック事項は下記の通りです。
- 法規制
- 道路状況
- インフラの状況
- 敷地特性
1の(法規編)と2〜4の(敷地状況編)の2回でご説明します。
目次
住宅建築に関わる様々な建築法規
建物を建てるときには、都市計画法、建築基準法などで様々な法規が関わってきますが、ここでは代表的な規制についてご説明します。
用途地域
「用途地域」という言葉は聞いたことがある方も多いと思いますが、土地には都市計画法によって「用途地域」が定められ、それぞれ利用できる建物の用途が決められているんです。
そのため、用途地域によっては、住環境はいいけど若干不便とか、住むには便利だけど住環境はいまひとつ、といったようなことも出てきます。
それではもう少し詳しくみてみましょう。
用途地域は13種類もありますが、大きく分けると下記の3種類となります。
- 住居系用途地域
- 商業系用途地域
- 工業系用途地域
それぞれの用途地域を見ましょう。
住居系用途地域
住居系の用途地域は下記の8種類あります。
主として住環境が良好な用途地域ですが、用途地域によっては、商業施設などの建設に制限がかかり、利便性と住環境のどちらを重視するかによってどこにするか決める必要があります。
1. 第1種低層住居専用地域
住環境を最優先とした地域です。事務所とか店舗を兼用した住宅も建築可能です。但し、その用途は食堂、喫茶店、理髪店、美容院、クリーニング店、学習塾、華道・囲碁教室など、日常生活に関わるものに限られます。※コンビニエンスストアは原則建築できません。住環境はとてもいいですが、その分利便性に欠ける点があります。
(※:住環境を害さず、公益上やむをえないといった条件をクリアすれば建築可能)
2. 第2種低層住居専用地域
第1種低層住居専用地域よりは規制がゆるい地域です。第1種住居専用地域で建てられる建築に加え、150㎡以内であれば、店舗も建築可能です。その用途はやはり日常生活に関わるもので、第1種低層住居専用地域と同じです。コンビニエンスストアは建築可能です。
3. 第1種中高層住居専用地域
低層住居専用地域よりも制限が緩和され、主にマンションなどの中高層住宅のための地域です。低層住居専用地域で認めれれているものに加え、病院や大学、500㎡までの店舗、飲食店も建築可能です。但し、オフィスビル、ホテル、旅館などは建築できません。
4. 第2種中高層住居専用地域
第1種中高層住居専用地域と同様に、マンションなどの中高層住宅のための地域ですが、さらに500㎡を超えて1500㎡までの物品販売を含む店舗・飲食店・事務所ビル・ガソリンスタンドなどが建てられるという点が異なります。第1種中高層住居専用地域よりも、もう少し日常生活での利便性が高い地域です。
5. 第1種住居地域
第2種中高層住居地域の制限がさらに緩和され、店舗は種類を選ばず、3000㎡以下であればホテル・旅館・ボーリング場・ゴルフ練習場・自動車教習上所なども許可されます。いろいろな施設が混在できますが、中心は住居地域であるため、パチンコ店・マージャン屋・カラオケボックスなどは建築できません。
6. 第2種住居地域
メインは住居地域ですが、店舗・パチンコ店・マージャン屋・展示場などは1000㎡まで認められ、事務所・ホテル・旅館・カラオケボックスなどは面積の制限なく認められています。
7. 準住居地域
幹線道路の沿道等に多く指定され、大規模店舗や事務所だけでなく、自動車関連施設なども認められ、住居と調和した環境を保護するための地域です。
第2種住居地域の用途に加え、客席200㎡以下の劇場・映画館・演芸場・観覧場も建設可能となっています。
8. 田園住居地域
農業の利便の推進を図りつつ、低層の居住環境を保護する地域です。低層住居専用地域に建築可能なものに加え、農業用施設などが建築可能です。
商業系用途地域
商業系の用途地域は下記の2種類です。
店舗・事務所・娯楽施設など幅広く建築できます。
- 近隣商業地域
- 商業地域
工業系用途地域
工業系の用途地域は下記の3種類です。
主に倉庫・工場を建築しやすい用途地域ですが、工業専用地域のみが唯一、住宅が建築できない用途地域になっていますので、注意が必要です。
- 準工業地域
- 工業地域
- 工業専用地域
ここまでみてきたように、土地は多くの用途地域に分かれています。
居住環境を最優先すれば第1種低層住居専用地域がよさそうですが、利便性を最優先するなら、準住居地域あるいは商業系の用途市域がよいかもしれませんね。
これらの用途地域の特性をよく見極めて、土地の購入を検討して見てください。
防火地域・準防火地域・法22条指定区域
建物が建ち並んでいると、ひとたび火災が発生すると甚大な被害が発生してしまいます。
こうした火災による被害を防ぐために、防火に対するいくつかの地域・地区が指定されています。
指定された区域内の建物には、外壁・屋根などの造り方に防火上の配慮が必要になります。
これにより、コストが上がったり、使いたい外壁材が使えなかったりすることがでてきます。
もちろんこうした地域・区域が指定されていない場合は、住宅に限っていえば、防火上の規制はありません。
防火地域
都市計画法で指定される地域で、火災を防止するために最も厳しい建築制限が定められている地域です。この地域の建物は「階数が3階以上」かつ「面積が100㎡を超える」場合は※耐火建築物とし、その他の建築物は※準耐火建築物もしくは耐火建築物としなくてはなりません。したがってこの地域ではごく一般的な木造住宅は建てることができません。(もちろん、鉄筋コンクリート造なら建築可能ですし、鉄骨造でも造り方によっては可能となります)
準防火地域
この地域も都市計画法によって指定される地域ですが、防火地域よりは制限が緩くなっています。この地域では「階数が4階以上」または「面積が1500㎡を超える」場合は※耐火建築物とし、「面積が500㎡を超え、1500㎡以下」の場合は※準耐火建築物もしくは耐火建築物としなければなりません。しかし、「階数が2階以下」または「面積が500㎡以下」であれば一般的な木造が建築可能です。但し「延焼ライン」といって、外壁のうちで、道路中心線及び隣地境界線から1階部分の3m、2階部分であれば5mの範囲内に入っている場合は、その外壁を※防火構造という仕様にしなくてはなりません。この場合は、例えば外壁に自然の木板を張りたくても普通は張ることができません。(但し、特別な認定を受けた自然素材の木板もありますが、高価です)
※耐火建築物
耐火建築物とは、耐火構造という壁・柱・床・その他の建築物の部分の構造のうち、耐火性能の基準に適合する構造である建築物のことをいいます。一般的には鉄筋コンクリート造、あるいは鉄骨造で柱・梁に耐火被覆をし、外壁に耐火構造の認定を取った材料を張ったような建築のことをいいます。(木造でも集成材をつかって、特殊な仕様にすれば可能でが、一般的ではないので、説明は省きます)
※準耐火建築物
準耐火建築物とは、準耐火構造という壁・柱・床その他の建築物の部分の構造のうち、準耐火性能の基準に適合する構造である建築物のことをいいます。一般的には鉄骨造の建物が多いです。木造でも「燃えしろ設計」といって、木造の柱・梁について表面が燃えても構造耐力上支障のない大きな断面にすることで可能になります。
※防火構造
建物の周囲で火災が発生した場合に、建物の外壁や軒裏において延焼することを抑制するための防火性能の基準に適合する構造のことをいいます。
主に窯業系サイディング、金属系サイディングなどがあり、昔ながらのモルタル塗りも塗厚が20mm以上で、内壁にプラスターボードが張ってある場合も防火構造となります。
法22条指定区域
防火地域・準防火地域以外の市街地で、火災の危険を防ぐために特定行政庁から指定された区域をいいます。
この区域の建物は、屋根を不燃材料で造るか、不燃材料で葺くことが義務付けられています。
さらに準防火地域の項目でご説明した「延焼ライン」にかかる外壁は、土塗壁などの燃えにくい不燃材料にしなくてはなりません。
建ぺい率と容積率
土地が広ければ、大きな家が造れるかというと必ずしもそうではありません。
実は、自分の都合で、好きに建物の規模を決めることができないのです。
これらを規制しているのが、「建ぺい率」と「容積率」です。
建ぺい率
よく聞く言葉ですが、これは「敷地面積に対する建築面積の割合」をいいます。
建築面積とは簡単にいうと、建物を真上からみたときの面積です。
例えば「建ぺい率60%」という敷地の場合は、敷地面積が100㎡であれば、建築面積が60㎡までの建物しか建てることができません。但し、階数は2階でも3階でも構いません。
この建ぺい率は先ほどご説明した用途市域によって定められています。
例えば住環境のよい第1種低層住居専用地域から第2種中高層住居専用地域までと田園住居地域であれば、建ぺい率は30%、40%、50%、60%のいずれかに指定されています。
第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域であれば、建ぺい率は50%、60%、80%のうちいずれかになります。
土地が広くても、もしその土地の建ぺい率が30%なら、広くて建てることはできません。
土地を買うときはこの建ぺい率がいくつかということをよく調べておく必要があります。
居住環境が良いところは、建ぺい率が低く抑えられているといえます。
容積率
容積率とは「敷地面積に対する延面積の割合」をいいます。
延べ面積とは、1階、2階、3階など全ての床面積の合計のことです。
例えば「容積率200%」という敷地の場合は、敷地面積が100㎡であれば、延面積はその敷地面積の2倍の200㎡まで建築可能ということです。
もし、その敷地が「建ぺい率60%」の敷地なら、理論的には1階60㎡、2階60㎡、3階60㎡、4階20㎡まで建てることができます。
(実際には4階建てになると、用途地域、防火指定、日影規制などにより構造、高さなど、様々なチェックが必要になりますが)
このような「容積率」も建ぺい率同様、各用途地域によって定められています。
第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、田園住居地域では50%、60%、80%、100%、150%、200%のいずれかになります。
第1種中高層住居地域から準住居地域では、100%、150%、200%、300%、400%、500%のうちのいずれかになります。
やはり、居住環境の良い地域では容積率も50%のように低く抑えられているところもあるんですね。
このような用途地域とか建ぺい率、容積率、防火、準防火地域などは、役所で調べることができます。
名古屋市では、ホームページの名古屋市都市計画情報提供サービスでみることができます。
下図のような図面ですが、丸の中に数字と文言が書いてありますが、これは用途地域と上の数字が容積率、下の数字が建ぺい率を表示しています。
他にも防火・準防火などもクリックすることでみることができます。
道路斜線制限・北側斜線制限
最後に斜線制限についてご説明します。
この「斜線制限」という言葉もよく聞かれるかと思います。
法に定められ基準にしたがて斜線を引いて、その斜線を超えて建築してはならないという法律です。
よく高層マンションなんかで、上の方が斜めにカットされたよう形のものがありますが、まさにそれが斜線制限です。
道路斜線制限
道路斜線については次回の道路状況のところでご説明します。
北側斜線制限
北側に位置する隣地の日照の悪化を防ぐことを目的とした法規です。
この規制は第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域の4つにかかります。
北側斜線とは、北側の隣地境界線を起点として、指定された「高さ」分だけ上がった点から指定された勾配の「斜線」を伸ばして、その斜線を超えて建築してはならないという規制です。
もし、北側が道路であった場合は、この道路を渡った側の道路境界線からの斜線となります。
また、指定された「高さ」とは第1種、第2種低層住居専用地域では5m、第1種、第2種中高層住居専用地域では10mとなります。
さらに指定された斜線の勾配は、、建物の各部分から北側の隣地境界線、もしくは道路の反対側の道路境界線までの「真北」方向に水平距離を測り、その水平距離の1.25倍の高さで決められます。
このように、居住環境の良い用途地域の場合は、より厳しい規制があり、特に低層住居専用地域では5mの高さから北側斜線がかかるわけですので、敷地形状によっては建築できる建物の階数とか形状が決めれれてしまいますので、注意が必要です。
ここまで土地購入に当たって、チェックすべき法規制についてみてきましたが、まだ他にも高度地区、日影規制などもありますが、一般的な高さが10m以下の住宅も場合には影響が少ないので、省略しました。
このように建築するに当たっては様々な法規制があります。敷地をみただけではそこに自分の思い描いた建物が建つかどうかは素人の方にはわかりません。購入の前には必ず専門家の方に意見を聞かれるのが良いと思います。
もちろん、私の方でも承りますよ。(無料です。お気軽に)
Categorised in: 建築設計あれこれコラム