吹き抜けでも寒くない家にする方法|断熱・空調で後悔しないポイント

吹き抜けのある家は、明るく開放感があり、どこにいても家族の気配を感じられる空間として人気があります。とくにリビングに吹き抜けを設けた間取りは、デザイン性も高く「こんな家に住みたい」と憧れる方も多いのではないでしょうか。
しかしその一方で、「冬は寒くないの?」「エアコンの効きが悪そう」「光熱費が高くなりそう」といった不安の声もよく聞かれます。実際、断熱や空調計画が不十分なまま吹き抜けを採用してしまうと、室温が安定せず「思ったより寒い」「後悔している」というケースも見受けられます。
では、吹き抜けは本当に寒くて住みにくいのでしょうか?
実は、適切な断熱性能・気密性・空調の工夫を取り入れれば、吹き抜けでも快適で暖かい住まいをつくることは十分に可能です。むしろ、自然光や暖気の流れをうまく活かすことで、エネルギー効率の良い家にすることもできます。
この記事では、吹き抜け空間でも「寒くない家」を実現するために必要なポイントを、
- 断熱の考え方
- 暖房・空調計画
- 設計の工夫
の3つの観点から詳しく解説していきます。
吹き抜けのある家は本当に寒い?
リビングに大きな吹き抜けがある家は、光がたっぷり入り、空間も広く感じられるため、家づくりを検討する多くの方にとって憧れの間取りです。家族の気配を感じやすく、インテリアの自由度も高まるなど、メリットの多い空間構成といえると思います。
しかしその一方で、「冬は寒くならない?」「天井が高いから暖房効率が悪そう…」「吹き抜けって後悔しやすいのでは?」といった心配の声もよく聞かれます。特に寒冷地や、冬場の冷え込みが厳しい地域では、こうした不安が家づくりの障壁になることもあります。
実際、断熱性能や空調計画が不十分な状態で吹き抜けを採用してしまうと、室温が安定せずに「思ったより寒い」「暖房が効かない」と後悔するケースがあるのは事実です。ですがそれは、「吹き抜けそのものが寒い」わけではなく、断熱・気密・空調計画・設計の工夫が不十分であったことが根本的な原因です。
では、なぜ吹き抜けで寒く感じるのでしょうか? 主な原因を見ていきましょう。
寒く感じる主な原因
1. 断熱性能の不足
吹き抜けのある空間は、天井が高くなる分だけ外気と接する面積が増えます。屋根や天井面から熱が逃げやすくなるため、断熱材の性能や厚み、施工精度が不十分だと、冷え込みを感じやすくなります。
また、断熱性が低い窓を使っていると、ガラス面からの冷気が降りてきて、足元が冷たく感じる「コールドドラフト現象」が発生しやすくなります。こうした冷気の流入も、「吹き抜けは寒い」と感じる一因です。
2. 暖かい空気が上に逃げる
暖かい空気(暖気)は性質上、上へと移動します。吹き抜けがあると、1階のリビングで暖房した空気が2階の高い天井方向へ上がっていき、足元がなかなか暖まらないという現象が起こります。
その結果、暖房を強めに設定しても、2階に暖気がたまって暑いのに、1階は寒いという“温度ムラ”が生じやすくなるのです。
3. 空調の計画不足
住宅の空調は、ただエアコンを設置するだけでは快適性を保てません。とくに吹き抜けのある家では、空気の流れ(気流)をどうコントロールするかが大きなポイントになります。
たとえば、1階の隅にだけエアコンを設置しても、暖気が上部へ逃げてしまい、十分に部屋全体が暖まらないケースもあります。吹き抜けの形状や窓の位置、建具の開閉状況まで考慮した空調設計が求められます。
吹き抜けでよくある“後悔”の声
実際に、吹き抜けを採用したものの、思うような快適さが得られなかったという声もあります。
- 「冬にリビングが全然暖まらない」
せっかくリビングに吹き抜けをつくったのに、エアコンを何時間つけても足元が冷たいまま。床付近の寒さに耐えきれず、ストーブを買い足したという声も。 - 「エアコンを強めに使って光熱費が高くなった」
室内が暖まりにくいため、エアコンの設定温度を上げざるを得ず、電気代が予想以上にかさんだというケースも少なくありません。 - 「2階に暖気がこもって1階との温度差が大きい」
2階のホールや個室が必要以上に暖かくなりすぎてしまう。これは、暖気の流れをうまくコントロールできていない典型的な例です。
これらの後悔のほとんどは、家そのものの性能(断熱・気密)と空調の計画がしっかりしていれば防ぐことができた問題です。
つまり、吹き抜けを採用すること自体が問題ではなく、快適に過ごせるように工夫された“設計と性能のバランス”があるかどうかが、後悔しない家づくりの鍵なのです。
吹き抜けでも寒くない家にする断熱の工夫
吹き抜けのある家を快適に保つためには、単に見た目の設計だけでなく、「断熱性能」をしっかり確保することが最も重要なポイントです。とくに上下方向に空間が大きく広がる吹き抜けでは、熱の出入りが起こりやすいため、外気の影響を最小限に抑える断熱対策が欠かせません。
ここでは、吹き抜け空間でも冬に寒くなりにくい住まいにするための断熱のポイントを詳しく解説します。
1. 吹き抜け周辺の断熱を重点的に強化する
■ 屋根・天井断熱は最重要ポイント
吹き抜けのある家では、2階の天井(または屋根面)がそのまま外気と接する面積となり、熱が逃げやすいエリアになります。そのため、屋根断熱または天井断熱の性能をしっかり確保することが重要です。
おすすめは、厚みのある高性能断熱材(高性能グラスウールやウレタン系断熱材など)を隙間なく施工する方法です。断熱材の種類だけでなく、施工精度も快適性に大きく影響するため、現場でのチェックも欠かせません。
また、屋根面で断熱する場合(屋根断熱)は、通気層をしっかり設けて湿気がこもらない構造にする必要があります。
■ 壁・床も断熱をおろそかにしない
吹き抜け部分の壁は外壁としての面積が大きくなることが多いため、ここにも高い断熱性能が求められます。断熱材の厚みと種類に加え、筋交いや配線のまわりの細部まできちんと断熱材が充填されているかも重要なチェックポイントです。
さらに、床下からの冷気を防ぐための床断熱も見落としがちなポイント。とくに床下エアコンを併用する設計では、基礎断熱とし、かつ土間下に断熱材を敷き込むことも大切です。
2. 窓まわりの断熱対策で冷気をシャットアウト
吹き抜けに大きな窓や高窓(吹き抜けFIX窓)を設ける設計も多く見られますが、ここで断熱性を確保できていないと、冬の冷気がガラス面から入り込み、「コールドドラフト現象」によって室内の快適性が大きく損なわれることになります。
■ 高断熱窓を選ぶポイント
吹き抜けのある家では、以下のような断熱性に優れた窓を選ぶことをおすすめします。
- Low-E複層ガラス(Low-Eペアガラス)
特殊金属膜を使い、断熱性だけでなく日射遮蔽・取得の調整も可能なガラスです。「遮熱タイプ」と「断熱タイプ」を使い分けることで、夏冬の快適性を両立できます。特に南側のガラスは「断熱タイプ」を使用して、冬場の日射熱をしっかり取り込みます。 - 樹脂サッシまたは樹脂アルミ複合サッシ
サッシ枠の素材によっても断熱性能は大きく異なります。アルミサッシは熱伝導率が高く冷えやすいため、熱が伝わりにくい樹脂製のサッシ枠を選ぶことで、窓まわりの断熱性が格段に向上します。
■ 窓の配置と設計もポイント
南面の高窓から冬の日射を取り入れる設計にすれば、太陽熱で室内を暖める「パッシブ設計」にもつながります。逆に北面や西面には大開口を避けるなど、開口部の「位置と大きさ」の工夫も断熱性・温熱環境に大きく影響します。
3. 気密性を高めて、冷気も暖気も逃さない
断熱材の性能が高くても、家に隙間が多ければ、せっかく温めた空気が外に逃げてしまい、快適な室内環境は実現できません。
とくに吹き抜け空間では上下方向の空気の移動が大きくなるため、建物全体の気密性を高めることが不可欠です。
■ 気密性能を表す「C値」に注目
気密性能は「C値(相当隙間面積)」という指標で表され、この数値が小さいほど隙間が少なく、空気が漏れにくい高気密住宅であるといえます。
- C値1.0以下 … 一般的な基準を満たすレベル
- C値0.5以下 … 高気密住宅と呼べる優れた気密性能
- C値0.3以下 … ハイレベルな施工精度が必要な数値
家づくりの段階で気密測定を実施して数値を確認することが大切です。気密性が確保されていれば、少ないエネルギーで室温を快適に保ちやすくなり、冷暖房の効率も格段にアップします。
暖房効率を上げる空調計画のポイント
断熱や気密がしっかり確保されていても、空調計画が不十分では吹き抜けのある家の快適性は実現できません。特に暖かい空気は上へと上昇する性質があるため、上下階の温度差が生じやすく、1階が「暖まりにくい」と感じる原因になります。
ここでは、吹き抜け住宅に適した空調設備の選び方や、空気の流れをコントロールするための工夫を詳しく解説します。
1. 床下エアコンや全館空調を活用しよう
■ 床下エアコン:床下から室内を暖める
近年、吹き抜け住宅と相性が良い暖房方式として注目されているのが「床下エアコン」です。これは、床下にエアコンの暖気を送り込み、床面に吹き出しのガラリを設けることで、床面から部屋全体を暖める仕組みです。
主なメリット:
- 足元から暖まるため、体感温度が高く快適
- 暖かい空気が吹き抜けを伝って自然に2階にも届く
- 温度のムラが起きにくい
注意点としては、床下空間を暖気が効率よく巡るように設計する必要があるため、建築段階からの計画が不可欠です。また、断熱・気密が不十分だと熱が逃げてしまい効果が出ないため、建物性能とセットで導入することが前提となります。
床下エアコンについて詳しくは、「床下エアコンとは?仕組み・メリット・注意点をわかりやすく解説」をご覧ください
■ 全館空調:家全体を均一な温度に
全館空調とは、天井裏や床下などに設置されたダクトを通して、家全体を1台の空調機で管理するシステムです。特に高気密・高断熱住宅との相性が良く、吹き抜けのある住宅でも以下のようなメリットがあります。
- 部屋ごとの温度差が少なく、快適性が高い
- 吹き抜け空間も含めて均一な温度に保ちやすい
- 機器が見えないため空間デザインを損なわない
ただし、初期コストやメンテナンス費用は通常のエアコンより高めなので、長期的な運用コストとのバランスを考えて導入を検討することが大切です。
2. 吹き抜け空間の空気を循環させる工夫
吹き抜けの上部に溜まりがちな暖気をうまく循環させるには、「空気の流れ」を意識した設計が欠かせません。
■ シーリングファンの活用
シーリングファンは、天井付近に溜まった暖かい空気をゆるやかに撹拌し、下の空間にも届けるための有効な手段です。
- 冬は下向き回転で暖気を床面へ
- 夏は上向き回転で上昇気流を作り、涼感を高める
風量は「そよ風程度」に調整することで、空気をやさしく動かし、体に風が直接当たらないようにするのがポイントです。
■ 吹出口・吸込口の適切な配置
エアコンや全館空調の吹出口・吸込口を上下階にバランスよく設置することも、室温を均一に保つカギです。
- 1階:床面などの低い位置に吹出口を設置して暖気を供給
- 2階:吹き抜けの高い位置に吸込口を設け、空気を循環
こうした配置によって、暖気の滞留や偏りを防ぎ、効率よく室温をコントロールできます。
3. 建物性能を高めて冷暖房効率を最大化
空調設備の選定と同じくらい重要なのが、住宅そのものの性能をしっかり確保することです。
■ 高断熱・高気密でエネルギーロスを防ぐ
どれだけ優れた空調機器を導入しても、断熱性能が低かったり、すき間だらけの住宅ではその性能を十分に発揮できません。熱が逃げにくく、空気が漏れにくい住宅であれば、空調機器は少ないエネルギーで効率よく室温を保てるようになります。
これにより、
- 光熱費を抑えながら快適な室内環境を維持
- 設備の過剰な稼働が不要になり、寿命も延びる
- 外気温の影響を受けにくいため、冬も寒くなりにくい
といったメリットが得られます。
設計の工夫で快適性は大きく変わる
吹き抜け空間の快適性は、「断熱性能」や「空調設備」だけでなく、間取りや空間構成といった設計の工夫によっても大きく左右されます。つまり、単に「吹き抜けをつくる」のではなく、その配置や大きさ、周辺空間との関係性をどうデザインするかが、暮らしやすさに直結するのです。
吹き抜けの「位置」と「大きさ」は間取りとのバランスがカギ
吹き抜けは家の中でも大きな空間であり、光・熱・空気の流れに強く影響する要素です。設置する位置やサイズを間取り全体と連動させることで、住まい全体の快適性や省エネ性を高めることができます。
■ 南側に配置して太陽の熱を活かす
たとえば、南側に吹き抜けを配置し、高窓(ハイサイドライト)から太陽の光を取り込む設計にすれば、冬の貴重な日射熱を室内奥まで届けることが可能です。リビングなど日常的に過ごす時間が長い場所と組み合わせることで、自然の熱と光を活かしたパッシブデザインが実現します。
■ 吹き抜けを小さく複数に分けるという選択肢
「大きな吹き抜けを1つ作る」のではなく、必要な場所に小さな吹き抜けをつくるという工夫も考えられます。たとえば、
- 階段上部に縦長の吹き抜けを設けて空気の通り道にし、2階への通風や暖気の供給に役立ちます。
- 玄関や洗面など限られた空間に吹き抜けを設け、明るさや開放感が確保できます。
など、光や風の導線を考慮して吹き抜けを分散配置することで、空間の快適性と省エネ性を両立できます。
空間の「つながり」と「閉じる」工夫で熱の流出を防ぐ
吹き抜けは空間同士をつなぐ役割がありますが、つながりすぎると暖房効率が落ちてしまうこともあります。そこで重要になるのが、「つなげる部分」と「仕切る部分」を計画的に使い分けるゾーニング設計です。
■ 必要な部分は“閉じる”ことも考える
家全体をオープンにつなげすぎず、引き戸や建具、間仕切り壁を使って温熱環境をコントロールする工夫が求められます。たとえば、
- 冬場は夜間にリビングと吹き抜け階段を引き戸で仕切る
- 必要のない部屋への暖気の流出を防ぐための間仕切り設置
といった工夫で、効率よく暖房を使いながら快適な温度帯を維持できます。
■ 生活動線と空調動線を連動させる
設計段階で、「人の動線(生活動線)」と「空気の流れ(空調動線)」を一緒に考えることが重要です。たとえば、
- 吹き抜けの上下階に空調機の吹出口・吸込口を連動配置する
- 吹き抜けの上部と2階ホールをつなぎ、空気を循環しやすくする
といった設計的配慮によって、快適さとエネルギー効率を両立した家づくりが可能になります。
吹き抜けは「見た目」だけでなく「性能」とのバランスで
吹き抜けという空間は、ただの「おしゃれな間取り」ではなく、空間の質と暮らしやすさの両立を図るための設計要素です。だからこそ、設置する際には
- どこに・どのくらいの広さで配置するか
- 周辺との関係性や空調設備との連動
- 冬の寒さ・夏の暑さにどう対応するか
といった多角的な視点で設計する必要があります。
安易なデザイン優先の吹き抜けでは、「思っていたより寒い・暑い」「光熱費がかかる」といった後悔の原因にもなりかねません。設計段階から性能とデザインの両面に配慮することが、快適な住まいづくりの秘訣です。
まとめ|吹き抜け=寒いを覆す、設計と性能のバランスが鍵
「吹き抜けのある家は寒い」「暖房が効きにくい」といった不安は、多くの方が一度は感じるものです。しかし実際には、断熱・気密・空調、そして設計の工夫が適切に施されていれば、吹き抜けのある家でも十分に暖かく、快適な暮らしが可能です。
特に重要なのは以下の3点です:
- 高断熱・高気密の確保
屋根や天井、床、窓といった外気と接する部分の断熱性能を高め、隙間の少ない構造を実現することで、外気温の影響を最小限に抑えることができます。 - 空調の計画と設備の選定
床下エアコンや全館空調、シーリングファンなどを効果的に組み合わせて空気を循環させれば、上下階の温度差を抑え、効率的な暖房が可能になります。 - 設計段階からの空間計画
吹き抜けの位置や大きさ、窓の配置、建具によるゾーニングなどを丁寧に計画することで、開放感と省エネ性を両立した住まいが実現します。
つまり、「吹き抜けが寒い」のではなく、快適さを左右するのは設計と性能の“バランス”なのです。
光や風が抜ける開放的な空間を楽しみながら、冬は暖かく、夏は涼しい家にするには、性能を重視した設計が欠かせません。吹き抜けに不安がある方こそ、住宅の基本性能をしっかり押さえた設計事務所に相談することで、後悔のない家づくりが実現できるでしょう。
「吹き抜けのある家=寒い」は、正しい設計と性能の確保で十分に解消できます。
開放感と快適性を両立した住まいを目指すなら、断熱・気密・空調までを含めた総合的な家づくりが重要です。
設計の工夫で、吹き抜けのある家でも冬暖かく、夏涼しく。
後悔しない住まいづくりのために、ぜひお気軽にご相談ください。
無料相談。無料プランニングはこちらからどうぞ