地震に強い家づくり|耐震等級3に加えて考えるべき3つのポイント

「耐震等級3を取得していれば、地震に強い家になる」
そう信じて安心している方も多いかもしれません。

たしかに、耐震等級3は住宅性能表示制度における最高ランクであり、消防署や警察署など防災拠点となる建物と同等の耐震性を求められる水準です。
震度6強〜7クラスの大地震にも「倒壊・崩壊しない」構造設計となっており、安全な家づくりの第一歩として、とても重要な指標であることは間違いありません。

しかし――
本当に安心して暮らせる「地震に強い家」をつくるには、この耐震等級3を取得することを“ゴール”にしない姿勢が必要です。

たとえば、次のようなリスクが挙げられます:

  • 繰り返しの揺れ(余震)による構造体の損傷蓄積
    耐震等級3の構造も、複数回の強い揺れにさらされればダメージを蓄積します。木造住宅では最初の揺れで目に見えない亀裂が生じ、後の揺れで性能が著しく低下する可能性もあります。
  • 湿気やシロアリなどによる構造材の経年劣化
    壁の中や床下に湿気がこもることで、構造材が腐朽したり、シロアリ被害を受けたりすれば、耐震性は確実に低下します。新築時にいくら等級が高くても、10年後・20年後にその性能が保たれていなければ意味がありません。
  • 地盤の特性と設計のミスマッチ
    建物自体が強くても、地盤が軟弱であったり、液状化の可能性があったりすれば、揺れは想定以上に増幅され、構造全体の安全性が損なわれます。

これらのリスクは、耐震等級のスコアだけでは判断できません。
だからこそ、「設計図面上の性能」だけでなく、「建てる場所」や「住まいの寿命」、「繰り返しの災害リスク」まで見据えた家づくりが重要なのです。

この記事では、そうした視点から、「地震に強い家」をつくるために設計段階で必ず押さえておきたい3つのポイントを、建築士の立場からわかりやすく解説します。
これから家づくりを始める方、地震への備えを見直したい方は、ぜひ参考にしてください。

目次

耐震等級3とは?その意味と限界を知る

地震に強い家づくりの第一歩、それが「耐震等級」

大地震に備えて家を建てるなら、まず検討したいのが「耐震等級」です。これは住宅の耐震性能を示す指標で、「住宅性能表示制度」によって等級1〜3の3段階に分類されます。

とくに注文住宅では「耐震等級3相当」などの表現が一般的になり、「等級3を取得していれば安心」といった認識が広まっています。確かに、耐震等級3は建物の耐震性能としては最高ランクであり、安全性の高さを裏付ける材料になります。

しかし――
「等級3だから絶対に安全」とは限りません。

設計上の数字だけではカバーしきれない“実際の地震被害リスク”があるのです。


耐震等級とは?──建物の“地震耐力”を示す基準

耐震等級は、「震度6強〜7程度の大地震に見舞われたとき、建物がどれくらいの揺れに耐えられるか」を評価するものです。

以下のような等級区分があります:

等級概要主な対象建物
等級1建築基準法に準拠した最低限の耐震性能。建物の倒壊は防げるが、損傷は想定される。一般的な住宅
等級2等級1の1.25倍の地震力に耐える。学校や病院など、避難施設に求められる水準。学校・病院など
等級3等級1の1.5倍の地震力に耐える。もっとも高い耐震性能。消防署・警察署などの防災拠点

この「等級3」が、住宅業界では地震に強い家の目安として広く使われています。


同じ「等級3」でも、中身がまったく違う?

ここで重要なのが、「耐震等級3の評価方法には2種類ある」という点です。

① 仕様規定(壁量計算)によるもの

木造2階建ての住宅などでよく使われる、比較的簡易な手法です。壁の量や配置、金物の種類などから耐震性を評価します。
設計や申請がスムーズでコストも抑えやすい反面、建物全体の力の流れや変形を数値的に分析しないため、複雑な形状の住宅や吹き抜けのあるプランなどでは、実際の地震時に予想外の損傷を受けることもあります。

② 許容応力度計算(構造計算)によるもの

建物にかかる荷重(地震力・風圧力・積雪など)をすべて数値化し、それに耐えられる構造になっているかを検証する手法です。RC造や鉄骨造では必須ですが、木造住宅でも3階建てや複雑な間取りではこの構造計算が義務づけられています。

等級3と表示されていても、壁量計算によるものか、構造計算によるものかで、その信頼性は少なからず差があります。


「耐震等級3=安心」は、本当に正しい?

耐震等級3は、あくまで設計段階での基準クリアを意味しており、必ずしも「実際の地震で絶対安全」ではありません。
たとえば、以下のようなリスクが現実には存在します。

■ 建物の形状や構造バランスの問題

L字型、コの字型、複数の吹き抜けや下屋が組み合わさった建物などは、構造的にバランスが悪く、地震の揺れに弱い傾向があります。許容応力度計算による構造検討がないと、こうした偏りが見落とされがちです。

■ 地盤との相性

どれだけ頑丈な構造でも、地盤が軟弱であれば揺れは増幅し、建物に想定以上の力が加わります。地盤調査の有無や、それを反映した基礎設計がされているかどうかも、耐震性に大きく影響します。

■ 施工の品質

設計通りの金物が適切に施工されているか、耐力壁が図面通りに配置されているか、基礎の配筋やコンクリートのかぶり厚さなど――
これらの現場施工の精度が低ければ、いくら図面上「等級3」であっても、実際の強さは発揮されません。


耐震等級3は「前提」であって「ゴール」ではない

本当に地震に強い家を建てたいなら、「耐震等級3を取得すること」を目的とするのではなく、その裏にある設計・施工の中身にこだわることが大切です。

地震に強い家づくりに必要な総合力とは:

  • バランスのとれた建物形状(重心と剛心のズレが少ない)
  • 許容応力度計算による構造の裏付け
  • 地盤調査と適切な基礎設計
  • 現場での施工精度の確保
  • 建てた後の経年劣化を防ぐ工夫(湿気対策・通気層・シロアリ対策など)

耐震等級3は、そのスタートラインにすぎません。設計者とよく話し合いながら、建物全体の安全性を「総合的に」考える視点が求められます。


安心できる家づくりのために

私たちは、単に等級3を満たす設計をするのではなく、「長く安心して暮らせる家」を実現するために、構造・地盤・施工のすべてに目を配ります。

次章では、そうした考え方にもとづいて、

  • 「繰り返しの揺れに備える制振設計」
  • 「構造体を長寿命化するための湿気対策・劣化対策」
  • 「地盤と建物の相性をふまえた基礎設計」

という、等級3のその先にある3つの視点を具体的に解説します。


ポイント① 繰り返しの揺れに備えて「制振」を考える

耐震等級3は、建築基準法の1.5倍の地震力に対して倒壊・崩壊しない構造を示しています。これは非常に高い水準ですが、あくまで「繰り返しの地震に耐えることを想定した設計」ではないことを忘れてはいけません。

しかし実際の地震では、本震だけでなく何度も繰り返す余震や長周期地震動など、複雑で持続的な揺れが起こることが多くあります。

■ 木造住宅は「繰り返しの揺れ」に弱い面も

木造住宅は軽量で揺れに強い反面、柱・梁・接合部などの構造体が繰り返しの応力にさらされると、次第に変形や劣化が進む可能性があります。

たとえ外見に大きな損傷がなくても、

  • 接合部に「ズレ」や「緩み」が生じる
  • 壁倍率が低下して、構造的に弱くなる
  • 建物全体が歪んでいく

といった見えない部分で性能が下がることがあるのです。

このようなリスクを抑えるために有効なのが、「制振構造の導入」です。


■ 「制振」とは、揺れのエネルギーを吸収して建物を守る仕組み

制振とは、地震のエネルギーを建物の中で吸収・分散させ、揺れの負荷を構造体に直接伝えにくくする考え方です。

具体的には、以下のような装置や仕組みが使われます:

  • オイルダンパー:油圧によって揺れを吸収する装置
  • 金属系制振ブレース:金属の変形でエネルギーを吸収する部材
  • 摩擦ダンパー:金属板の摩擦によって揺れを抑える機構

これらを柱と梁の間や、耐力壁の背後などに適切に配置することで、建物が受ける加速度や変形量を抑え、繰り返しの揺れに対する耐久性を大きく向上させることができます。


■ 木造住宅にも対応した制振技術が進化している

これまで制振技術といえば、高層ビルやRC造(鉄筋コンクリート造)など、大規模建築物に採用されるイメージが強くありました。しかし近年では、地震対策への関心の高まりとともに、木造住宅向けにも高性能な制振装置が数多く開発・実用化されています。

これらの制振装置は、地震による揺れを感知すると内部のダンパーやバネがエネルギーを吸収し、建物全体の振動を抑える役割を果たします。特に繰り返しの余震や中小規模の揺れに対しても効果的で、構造体へのダメージの蓄積を大幅に軽減できる点が注目されています。

具体的には、以下のような木造住宅向け制振デバイスが利用可能です:

  • 柱と柱の間に設置できるオイルダンパータイプ
     比較的コンパクトな形状で、新築時はもちろん、既存住宅への後付けも可能。地震の揺れを瞬時に感知し、内部のオイルが動くことでエネルギーを熱に変換・吸収します。
  • 耐力壁の内部に組み込む金属ブレースタイプ
     X型やK型のブレース形状をとることで、変形しながら揺れを吸収。設計段階から組み込むことで、耐震性と制振性を両立した間取りが可能になります。

こうした装置は、設計の自由度を損なわずに導入できる点も大きなメリットです。たとえば大開口のあるLDKや、吹き抜け、スキップフロアなど、構造バランスに配慮が必要な間取りにおいても、意匠と性能を両立する手段として活用できます。

また、構造計算(許容応力度計算)と組み合わせて計画すれば、建物全体の応答解析に基づいた、より信頼性の高い耐震+制振設計が可能となります。

■ 「耐震+制振」で、より実践的な地震対策を

「耐震」は建物を強く固める考え方、「制振」はその強さを長く保つための工夫といえます。
特に、大きな揺れが来たあともすぐに住み続けられる家かどうかを考えたとき、「制振」を取り入れた住宅は明らかに有利です。

耐震等級3だけでなく「繰り返しの揺れへの備え」も視野に入れた家づくりを検討することをおすすめします。

世親装置について詳しくは、「繰り返される地震、制振ダンパーは必須か?」をご覧ください。


ポイント② 地盤と基礎をしっかり確認する

地震に強い家づくりを考えるうえで、「構造計画」や「耐震等級」だけに目が行きがちですが、見落としてはならないのが地盤と基礎の状態です。

どんなに強固な構造を持つ住宅であっても、それを支える地盤そのものが弱ければ、建物の性能は十分に発揮されません。
地震の揺れによって地盤が大きく変形したり沈下したりすれば、建物にひび割れや傾きが生じ、最悪の場合は居住不能になることもあります。

したがって、家づくりではまず「その土地が建物を支えられるか?」という地盤の安全性を確認することが大前提となるのです。


■ 地盤調査は必須|土地の性質は見た目だけではわからない

建築前には必ず地盤調査を行う必要があります。
とくに最近では、ハウスメーカーや設計事務所でも地盤調査を標準実施としているケースがほとんどです。

【代表的な調査方法】

  • スウェーデン式サウンディング試験(SWS試験)
     戸建て住宅で最も一般的な方法。
     鉄のロッドに荷重をかけて回転させながら地中に貫入させ、地層の固さを計測します。簡易でコストも低く、概ね5〜10ポイントで実施されます。
  • ボーリング調査
     より詳細な地層構成や地下水位、N値(地盤の強度)を確認する本格的な調査。
     費用が高額になるため、一般住宅ではあまり行われませんが、3階建てや重量鉄骨造などでは採用されることがあります。

見た目が平坦で固そうな土地であっても、地下には埋め戻し土や粘性土、空隙のある層が隠れている場合もあります。
「以前は田んぼだった」「造成地の端」「旗竿地や傾斜地」などは特に要注意です。


■ 地盤改良の方法|調査結果に応じた適切な対策を

調査の結果、軟弱地盤であると判定された場合は、建物を安全に支えるための「地盤改良工事」が必要になります。
主な方法は以下の通りです。

【主な地盤改良工法】

  1. 表層改良工法
     軟弱層が地表面から深さ2m以内の場合に適用。
     地表の土とセメント系固化材を混ぜて固め、建物を支える地盤をつくります。比較的安価ですが、支持力が限定的。
  2. 柱状改良工法
     深さ2〜8m程度の軟弱地盤に対して有効。
     地中にセメント系の柱を掘削・注入して人工的な“杭”をつくり、建物荷重を分散させます。戸建て住宅で最も多く採用される改良法です。
  3. 鋼管杭工法
     より深い支持層まで杭(鋼管)を打ち込み、建物を支える方法。
     支持層が10m以上深い場合や、柱状改良が困難な地盤で使われます。費用は高めですが、構造的には非常に強固です。

選択する工法は、地盤の性質・水位・建物の規模や重さによって最適解が変わります。
そのため、構造設計者や地盤専門会社との連携が非常に重要になります。


■ 基礎の種類と構造的な役割|ベタ基礎が主流に

地盤が整ったうえで、建物と地盤をつなぐ役割を果たすのが「基礎」です。
住宅においては、主に以下の2種類が使われます。

1. 布基礎

 建物の外周と主要な間仕切りの下だけに連続してコンクリートを打設する基礎
 比較的地盤の強度がある場合には、布基礎が使われます。ベテ基礎に比べて、コストは安くできます。

2. ベタ基礎(スラブ一体型基礎)

 建物の床下全体にわたって鉄筋コンクリートを打設する構造で、地盤の強度が低い場合に採用され、建物の荷重を面で支えるのが特徴。
 地震の揺れや地盤のわずかな変形を全体で分散できるため、耐震性・不同沈下対策の両面で有利です。現在の戸建て住宅では主流となっています。

さらに、基礎と土台を固定するアンカーボルトやホールダウン金物の配置・本数も、耐震性を左右する重要な要素です。設計通りに確実に施工されているかをチェックするには、基礎完成時の現場写真や検査記録の確認が効果的です。


■ 地盤・基礎は「あとから変えられない」

設計や仕上げの変更は後からでもある程度対応できますが、地盤と基礎は家が建ってしまえばもう手を加えることはできません。
だからこそ、「この土地に本当に建てても大丈夫か?」「どの基礎が最適か?」を設計初期段階で正しく判断することが、将来の安心に直結します。

また、土地探しの段階から「地盤リスクの少ないエリアかどうか」を意識することも重要です。
地名・地形・過去の地震や液状化履歴なども、判断の一助になります。


■ 地震に強い家は「足元」が命

どれだけ耐震等級の高い構造でも、地盤と基礎がしっかりしていなければその性能は発揮されません。
調査・計画・施工まで含めて、「足元の安全」を確認することが、地震に強い家の基本中の基本です。

  • 地盤調査は必ず実施し、適切な補強工法を選定する
  • 建物の荷重や地盤条件に合わせて、基礎形式を検討する
  • 設計図面と施工現場の整合性をチェックし、安心を確保する

こうした一つひとつの積み重ねが、「長く安心して暮らせる家」につながります。

ポイント③ 新築後も耐震性を保つために「通気・防湿・防蟻」を考える

たとえどれほど強固な構造で家を建てても、時間の経過とともに構造材が劣化すれば、耐震性能は確実に低下していきます
そしてその劣化の最大要因となるのが、湿気・結露・シロアリによる木材の腐朽や変質です。

■ 木材は「乾燥していれば強い」素材

木材は本来、適切に乾燥して保たれていれば、鉄やコンクリートに負けない強度と耐久性をもっています。
しかし、含水率(木の中に含まれる水分の割合)が高まると、次のような問題が起こります:

  • カビや腐朽菌が繁殖し、構造材が脆くなる
  • シロアリの好む環境となり、木材が内部から食害される
  • 金物が錆び、接合部の強度が落ちる

これらはいずれも、地震時の構造強度に直結する重大な劣化です。


■ 耐震性を長持ちさせる「湿気・防蟻対策」の具体例

新築時の耐震等級3を、10年・20年と保ち続けるためには、構造体を湿気や害虫から守る設計と施工が不可欠です。以下のようなポイントを丁寧に押さえる必要があります:

① 壁体内の通気と排湿

  • 通気層付きの外壁構造(通気工法)を採用し、壁の中に湿気を溜め込まない構造に
  • 断熱材や気密シートの配置にも工夫をし、内部結露が起きにくい納まりを設計段階から検討
  • 小屋裏や壁内の換気経路が連続しているかも重要なチェックポイントです

② 床下・基礎周りの防湿処理

  • 地面からの湿気を遮断する防湿シートの敷設
  • ベタ基礎とすることで床下の通気や清掃性を確保しつつ、湿気の侵入を抑える

③ シロアリ対策

  • 防蟻処理された木材の使用や、ホウ酸処理など人体に優しい薬剤を用いた長期対策
  • 風通し・水はけの良い外構計画(犬走り・雨水処理)も、シロアリ被害のリスクを減らします

■ 高気密・高断熱住宅こそ「湿気の設計」が重要

断熱性能や気密性が高まることで、家の中の温熱環境は格段に快適になりますが、一方で壁や床下に湿気がこもりやすくなるという側面もあります。

  • 適切な換気計画(24時間換気+局所換気)
  • 気密施工による空気漏れのコントロール
  • 結露が発生しやすい箇所の断熱強化や気流止め処理

など、「性能の高い家だからこそ必要な施工精度」があります。
この点をおろそかにすると、見た目はきれいでも、構造体内部が腐っていた…というような事態にもつながりかねません。


■ 長期の耐震性は「乾燥した強い構造体」が支える

耐震等級3を取るだけでなく、その性能を10年、20年、そして30年先まで保つ家を目指すには、
「木を腐らせない」「湿気をこもらせない」「シロアリを寄せつけない」ことが不可欠です。

それは決して難しいことではなく、設計段階からの通気・防湿・防蟻の工夫と、それを丁寧に実行する施工体制で実現できます。
目に見えない部分の性能が、地震のときに家族の安全を守る。
そんな「裏側の設計」こそ、これからの家づくりにおいて最も重要な視点かもしれません。

地震に強い家を建てるために|設計段階でできること

日本で家を建てる以上、地震への備えは欠かせません。
多くの方が「耐震等級3」に注目されますが、それだけでは長期的な安心を保証できるわけではないというのが現実です。

本当に地震に強い家をつくるには、揺れにどう耐えるかだけでなく、どう“守り続けるか”まで設計段階から考えることが重要です。


1. 繰り返しの揺れに備える「制振設計」

大地震では、本震だけでなく、余震や長周期地震動によって建物に想像以上の負荷がかかります。
とくに木造住宅では、最初の揺れで構造材の接合部に目に見えない損傷が生じ、その後の揺れで急激に耐震性能が低下することもあります。

このような繰り返しの揺れによるダメージの蓄積を防ぐためには、耐震設計に「制振」の考え方を加えることが効果的です。

▼ 制振装置(ダンパー)とは?

制振装置は、柱や壁の内部に設置し、地震のエネルギーを吸収・分散する役割を果たします。
たとえば、制振金物やオイルダンパー、ゴム系ダンパーなど、木造住宅向けにも様々な製品が開発されています。

→ 設計段階でのポイント:

  • 耐震等級3の構造をベースに、どの程度制振装置を追加すべきかを検討する
  • 建物の形状や重心の偏りを見直し、バランスの取れた構造計画にする

2. 10年後・20年後も強さを保つための「湿気・防蟻対策」

耐震性能を長く維持するためには、構造そのものの劣化を防ぐことが不可欠です。
その劣化を引き起こす最大の要因が、湿気・結露・シロアリです。

特に木造住宅では、構造体(柱・梁・土台など)の含水率が高くなると、木材の腐朽や蟻害が進行し、耐震性が著しく低下します。

▼ 劣化を防ぐために必要な対策:

  • 壁内に通気層を設け、外壁内にこもる湿気をしっかり排出できるようにする
  • 床下の防湿・換気設計を適切に行い、基礎周りに湿気が滞留しない構造にする
  • 物理的・化学的な防蟻対策を重ね、シロアリの侵入・被害を未然に防ぐ

とくに近年は、高気密・高断熱の住宅が主流となっています。
その結果、一度湿気がこもると逃げにくく、より精密な湿気対策と施工精度が求められます。

→ 設計段階でのポイント:

  • 断熱材・防湿層・通気層の構成を断面図レベルで詳細に検討する
  • 現場での施工精度が問われるため、施工管理・監理の計画も含めて設計する
  • 定期的な点検・メンテナンスを前提としたメンテナンス性の高い設計とする

3. 家の安全性を根本から支える「地盤と基礎」の検証

いくら上物(建物本体)の耐震性能が高くても、支える地盤が弱ければ、その性能は発揮されません
また、地盤に合っていない基礎形式を選んでしまうと、地震時に不均等な沈下や不同沈下を引き起こす可能性もあります。

▼ 地盤と基礎で考えるべきこと:

  • 地盤調査(スウェーデン式サウンディング試験など)で土の状態を把握する
  • 軟弱地盤であれば、表層改良や柱状改良、杭基礎などの対応を検討する
  • 液状化のリスクがあるエリアでは、その対策も踏まえた設計とすべき

地震に強い家は、まず「その土地にふさわしい基礎」を正しく選ぶところから始まります。

→ 設計段階でのポイント:

  • 早い段階で地盤調査を実施し、設計初期から地盤に合わせた計画に切り替える
  • 地盤改良や基礎形式の選定には、経験と知見のある設計者との連携が重要
  • 建物の重さや形状を踏まえた荷重分散型の基礎設計を行う

「数値だけでは測れない安心」を一緒に考える設計者を

耐震等級3はあくまで基準値にすぎません。
それをどのように設計に落とし込むか、そして長期間にわたって性能を維持するために何を備えるかによって、家の本当の強さは決まります。

目に見える数値や性能表示だけでなく、目に見えない「構造の裏側」や「将来の劣化リスク」にまで目を向けてこそ、安心して暮らせる住まいは完成します。

そして、それを形にするためには、設計者との丁寧な対話が欠かせません。

  • なぜこの制振装置を選んだのか?
  • なぜこの通気工法が適しているのか?
  • なぜこの基礎形式にしたのか?

そうした一つひとつの根拠を共有しながら、**「地震に強く、永く住める家」**を一緒につくっていくことが、私たち設計者の役割だと考えています。

まとめ|安心できる暮らしのために、耐震性能を正しく考える

大きな地震がいつ来るかわからない今、私たちができるのは、「地震に強い家をつくること」ではなく、「本当に信頼できる耐震性能を備えた家を計画すること」です。

そのためには、単に「耐震等級3を満たしているから安心」と考えるのでは不十分です。
設計・構造・施工の各段階で、より深く地震に強い家づくりを見つめ直すことが欠かせません。

具体的には、次の3つの視点が非常に重要です。


● 建物の形状と構造バランス

耐震性能を発揮するには、壁の配置や構造のバランスが整った、無理のない間取り計画が必要です。
複雑な形状や偏った構造は、揺れの力を建物に集中させ、部分的な損傷につながるおそれがあります。


● 地盤と基礎の適切な対応

家の耐震性は、地面との接点=「地盤と基礎」から始まります。
どれだけ強い構造を設計しても、地盤が弱ければ建物の揺れや傾きは避けられません。
地盤調査や基礎の選定は、家の「土台としての安全性」を支える重要なポイントです。


● 設計と施工の精度

構造計算どおりの性能を実現するには、実際の施工段階で図面通りに正確に仕上げることが必要不可欠です。
施工精度の確認や、第三者のチェック体制など、完成した後では見えない部分にこそ、住まい手の安心がかかっています。


家は、人生で何十年も住み続ける場所です。
だからこそ、見た目や設備だけでなく、「構造的な安心」まで丁寧に考えた家づくりが、本当の意味での“地震に強い家”につながっていきます。

設計の初期段階から、耐震性能についてしっかりと向き合い、安心して長く暮らせる住まいを実現していきましょう。



耐震等級3の設計はもちろん、地盤・基礎・構造のバランスまでを踏まえた家づくりを行っています。

安心して長く暮らせる家を実現するために、耐震性能をどう考えるか——

ご相談は無料で承っております。お気軽にお問い合わせください。

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