高性能住宅は設計で決まる|設計事務所が提案する性能とデザインの両立

家づくりを考えるとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「間取り」や「外観のデザイン」かもしれません。しかし、長く快適に暮らすために本当に重視すべきなのは、「住宅の性能」です。性能の高い住宅は、夏は涼しく冬は暖かく、冷暖房のエネルギーを効率よく使えるため、光熱費の節約にもつながります。また、耐震性や耐久性が高ければ、安心して住み続けることができ、将来的な資産価値にも大きく影響します。
一方で、性能の良し悪しは、断熱材やサッシなどの「部材のグレード」だけで決まるものではありません。実は、どんな材料や設備を使うか以上に、「設計の力」が住宅性能を左右します。たとえば、窓の配置や、庇に作り方などで室温や日射の入り方が大きく変わることもあるのです。
つまり、性能の高い住宅をつくるには、最初の「設計段階」でどれだけ綿密に考えられているかが重要なカギを握っています。
本記事では、設計事務所ならではの視点から、住宅性能を高めつつ、デザイン性も犠牲にしない家づくりのポイントを解説します。性能とデザインの両立に悩む方、または長期的に価値のある家を建てたいと考えている方に、ぜひ読んでいただければと思います。
住宅の性能とは
住宅性能とは、住まいに求められるさまざまな「快適性・安全性・経済性」を数値や基準で評価したものです。具体的には以下のような性能が含まれます。
【断熱性能】
室内の温度を外気の影響から守る性能です。断熱性能が高いと、夏の暑さや冬の寒さを室内に伝えにくくなり、冷暖房の効率が上がります。UA値(外皮平均熱貫流率)という数値で表され、数値が小さいほど断熱性が高いとされます。
【気密性能】
すき間風や空気の漏れを防ぐ性能です。断熱材が良くても、家全体の気密が甘ければ,外部の冷気あるいは暖気が侵入してしまい、性能が発揮されません。気密性能はC値(相当隙間面積)で評価され、数値が小さいほど気密性が高くなります。
【耐震性能】
地震の揺れに耐える構造の強さを示します。日本では「耐震等級」によって評価され、等級1が建築基準法の最低ライン、等級2・3になるほど災害に強い構造になります。これに加えて制振装置などを設置すると、繰り返しの地震にも耐震性が担保されます。制振装置は必須だと思います。
【省エネ性能】
断熱・気密と並び、住宅のエネルギー効率を評価する要素です。高性能な設備機器(エアコン、給湯器、照明など)を採用し、消費エネルギーを抑えることがポイントです。近年ではZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)などの指標も注目されています。
【耐久性・劣化対策】
長く住み続けられる家には、構造材の腐朽やシロアリ被害を防ぐ工夫が欠かせません。構造材を雨や湿気から守る設計や、劣化しにくい素材選びも性能に関わります。
【防火・防音・防犯】
火災の延焼を防ぐための耐火構造、外からの音を遮る遮音性能、防犯性の高い建具なども、生活の質に直結する重要な性能です。
これらの性能はひとつだけを高めればよいというものではなく、地域の気候、家族構成、ライフスタイル、予算とのバランスの中で、最適な水準を見極めることが重要です。また、これらの性能を最大限に活かすには、「どう設計するか」が非常に大きな影響を与えます。次章では、その「設計による性能の差」について詳しく解説します。
なぜ住宅性能は設計で差がつくのか
住宅性能というと、断熱材の厚みやサッシのグレードなど「使用する部材」に注目しがちですが、同じ素材・同じ性能の部材を使っても、「設計の工夫」があるかどうかで、家全体の性能は大きく変わってしまいます。ここでは、なぜ設計によって住宅性能が左右されるのか、その理由を具体的に見ていきます。
■ 開口部(窓)の配置が断熱・日射取得に影響する
南側に大きな窓を配置することで、冬は太陽の熱を室内に取り込むことができ、暖房負荷を軽減できます。反対に、東西や北側に無計画に窓を設けてしまうと、無駄に熱が逃げたり、夏場に強い西日が入って室温が上がる原因にもなります。
また、窓は断熱性能が最も弱い部位の一つです。どこに、どのくらいの面積の窓を配置するかという設計の判断が、実際の断熱性能や冷暖房効率に直結します。
窓には役割があります。役割に応じた設計が大切です。→窓について詳しくはこちらから
■ 通風計画と空気の流れは設計でしか作れない
風の通り道を考慮した設計は、自然換気による空気の入れ替えや涼しさの体感に大きく影響します。たとえば、対角線上に窓を配置する、風の入口と出口に高低差を持たせるなどの工夫により、機械設備に頼らず快適性を確保できます。
このような通風計画は、家の形状や間取りと深く関係しており、設計段階でなければ調整できません。
■ 外形(建物の形)と性能の関係
凹凸の多い複雑な外形は、壁の面積や屋根の継ぎ目が増え、熱損失が大きくなります。熱の出入りが少ない“シンプルな形状”の方が、断熱・気密性能の確保には有利です。デザインとのバランスを見ながら、外形をどう構成するかも設計力が問われるポイントです。
■ 階層構成やゾーニングが空調効率を左右する
吹き抜けの有無、リビングの配置、個室の位置関係なども空気の流れや熱移動に大きく影響します。たとえば、冷暖房の効きにくい間取りになってしまえば、高性能な設備を導入しても効果が出ません。空間構成そのものが、性能を活かす・殺すの分かれ目になります。
特に、吹き抜けがある場合は、断熱性能、気密性能を高める設計をすることが重要です。それをせず、安易に吹き抜けを設けると、冬場に寒くて仕方がない家となってしまいます。
■ 設計段階でのミスは、施工段階では取り返せない
設計上の不備——たとえば断熱性能の不足、開口部の配置ミスや日射取得の計算ミス、通風経路の未考慮など——は、家が完成してからでは修正が非常に困難です。後付けの断熱補強や機械換気で対応しようとしても、費用が高くつく上に根本的な解決にはなりません。
このように、住宅性能の本質は“何を使うか”より“どう設計するか”にあります。表面上は同じように見える家でも、設計力によって快適性や光熱費、住み心地に大きな差が出るのです。
設計事務所だからできる住宅性能のつくり方
高性能な住宅を実現するには、素材や設備のスペックだけでなく、「建築全体をどう組み立てるか」が重要です。設計事務所は、建築全体をトータルに捉えて考える立場にあり、その自由度と柔軟性を活かして、住まい手の暮らしに本当にフィットする性能設計を行うことができます。
■ 「性能×暮らし方」の最適解を一棟ごとに設計できる
設計事務所では、間取りや構造、性能、デザインをすべてゼロから組み立てるため、住まい手のライフスタイルや好みに合わせて細かく性能の方向性を調整できます。
たとえば「在宅ワークが中心なので書斎は冬でも暖かく保ちたい」「夏は風通しを重視したい」といった具体的な要望に対して、断熱・通風・日射取得などを空間ごとに最適化することが可能です。規格型住宅では難しい“部分最適”ができるのが、設計事務所の強みです。
■ 地域の風土や敷地条件に応じた個別最適な提案
同じ性能数値でも、寒冷地と温暖地、風の強い地域と都市部の密集地では、快適性の感じ方が異なります。設計事務所では、気候条件・方位・周辺環境などの「土地の読み解き」から始めることで、その敷地で最も理にかなった性能設計ができます。
たとえば日照時間が短い敷地であれば、光を取り込む工夫を重視した空間設計に。逆に夏の日射が強すぎる立地であれば、庇や植栽による遮熱が大きな意味を持ちます。土地に応じたカスタマイズは、設計事務所だからこそ実現できる視点です。
■ 意匠・構造・設備を一体的に設計
設計事務所は、意匠設計(デザイン)だけでなく、構造・設備まで含めて一体的に設計をします。これにより、性能と見た目のバランスをとりながら、無駄のない機能的な住宅を計画できます。
たとえば「天井の梁を現しにして空間にアクセントを持たせつつ、耐震性も確保する」「床下エアコンと断熱設計を連動させて暖房効率を高める」など、部材や機能の“役割を重ねる”ような設計は、各部分が規格化された大手住宅会社では難しい対応です。
■ 長期的な暮らしを見越した性能計画
目先の快適性だけでなく「10年後・20年後にどう暮らすか」を視野に入れた性能設計を行います。たとえば将来的なメンテナンス性や劣化対策、子育て後の生活スタイルの変化を考慮し、可変性のある空間構成や、長持ちする素材選定なども含めた提案が可能です。
こうした「時間軸を含めた設計」ができるのも、依頼者とじっくり向き合う設計事務所ならではの強みです。
このように、設計事務所は単にデザインが得意なだけでなく、「設計を通じて住宅性能を高める」ことを本質的に得意としています。住まいの性能を本気で考えるなら、部材や仕様だけでなく、設計から見直すことが最も効果的なアプローチと言えるでしょう。
デザイン性を保ちながら高性能な家にするコツ
性能を高めようとすると、窓を小さくしたり断熱材を増やしたりして「見た目が野暮ったくなるのでは?」という懸念を持つ方も少なくありません。しかし、設計の工夫次第で、デザイン性と住宅性能は両立可能です。ここでは、設計事務所が実践している“高性能×美しさ”を両立させるためのポイントをご紹介します。
■ 光と熱をコントロールする窓まわりの設計
断熱性を高めつつ、明るく開放的な空間をつくるには「窓の位置と大きさ」が鍵になります。
例えば、日射取得が有効な冬は、南側の開口部から太陽熱を取り込みつつ、夏は庇や植栽で日射を遮ることで冷房効率を維持するなど、窓の役割を「採光」だけでなく「温熱環境の調整装置」として設計します。
また、断熱性能の高いLow-Eガラスや樹脂サッシを使うことで、大開口でも断熱性を損なわない設計が可能になります。こうした設備選定と設計のバランスが、美しさと快適性の両立につながります。
■ 素材選びと意匠で「性能がデザインに見える」工夫を
構造材や日射遮蔽材などの「性能を担う部材」を、見せ方次第で意匠的なアクセントに変えることも可能です。
たとえば、日射遮蔽を可動ルーバーの建具にしたり、構造的に必要な柱や梁をあえて表しにして、空間のリズムをつくるなど、「機能部材をデザインの一部に取り込む」ことで、無駄なく統一感のある空間が生まれます。
これは、設計と意匠を一体で考える設計事務所ならではの発想です。
■ 空間の抜け感や視線のコントロールで狭さを感じさせない
断熱や気密を優先すると、空間が閉鎖的になりがちです。しかし、視線の抜けや天井高さの変化、間仕切りの工夫によって、開放感は十分に演出できます。
たとえば、リビングとダイニングを緩やかにつなげたり、光が抜けるスリット窓を設けたりすることで、断熱性を保ちつつも視覚的に広がりを持たせることができます。性能が高くても、住まいに「広さ」や「豊かさ」を感じさせる工夫がデザイン面では重要です。
■ 建築家の設計事例に見る“美しさと機能の両立”
実際の事例では、南側に大開口を設けつつ、庇や高性能ガラスで冷房負荷を抑えているケースや、通風を意識した開口配置によってエアコンに頼りすぎない設計が見られます。
また、床下エアコンを設けることで壁面に機器を設置せず、空間の美観を損なわずに快適性を確保している例もあります。こうした事例に共通するのは、「美しく見えることを前提に、性能を裏側で支えている」という設計思想です。
設計次第で、性能は「デザインの妨げ」ではなく「デザインの一部」として生かすことができます。つまり、性能と美しさはトレードオフではなく、設計の工夫で両立できるものなのです。
性能とデザインの両立を叶えるために依頼者が知っておきたいこと
高性能でありながら美しい住まいを実現するには、設計者の力量だけでなく、依頼者の「正しい理解」と「明確な希望」が不可欠です。この章では、依頼者として知っておきたいポイントをご紹介します。
■ 設計初期に「性能目標」と「暮らしのイメージ」を伝える
性能とデザインのバランスは、設計の初期段階での方向性によって大きく左右されます。
たとえば、
- 「夏は涼しく、冬は暖かい家にしたい」
- 「自然素材を使いながら断熱性を確保したい」
- 「耐震性と開放感を両立したい」
といった希望を、漠然とでもいいので最初に共有しておくことで、設計者はその理想に沿った優先順位でプランを構築できます。
また、目に見える要望(外観・間取りなど)だけでなく、暮らし方や家族構成、ライフスタイルの変化など、背景にある「住まい方」を伝えることが、高い提案力につながります。
■ 「コストバランス」の考え方を持つ
性能もデザインも“良いものをすべて取り入れる”には限界があります。予算内で最良のバランスをとるためには、コスト配分の考え方を共有することが重要です。
たとえば、
- 外張り断熱に費用をかける代わりに外壁はシンプルにする
- 冷暖房効率を上げるためにサッシを高性能にして、内装材は部分的に自然素材を取り入れる
など、「何にお金をかけ、どこで調整するか」の優先順位を設計者とすり合わせていくことで、性能とデザインのどちらも妥協せずに家づくりが進められます。
■ 設計事務所を選ぶときのチェックポイント
性能とデザインの両立を本気で考えているなら、設計事務所選びは慎重に行いましょう。見るべきポイントは以下の通りです。
- 性能に対する設計の考え方が明確か
→ 単なる断熱材や設備の提案にとどまらず、設計段階からどう性能を高めていくかが語られているか - 過去の実例に性能とデザインのバランスが取れているか
→ 施工事例を見て、「快適そうか」「光の入り方や通風は良さそうか」「機能的で美しいか」を確認 - 施主との対話を大切にしているか
→ 一方的な提案ではなく、ヒアリングを丁寧に行い、施主の暮らしを起点に設計してくれるか
性能だけ、デザインだけに偏っていないかは、施工事例・提案の仕方・話の聞き方から読み取ることができます。
■ 完璧を求めすぎず、“暮らしやすさのバランス”を意識する
最後に大切なのは、「性能の数値」や「見た目の美しさ」にとらわれすぎず、最終的にどれだけ“心地よく暮らせるか”という視点を持つことです。
たとえば、
- C値(気密性の指標)を0.1下げるよりも、家事動線を快適に整える方が暮らしに影響が大きい場合もあります。
- 建物を断熱で完璧に閉じるより、自然の風が通り抜ける工夫を優先したほうが、季節を楽しむ暮らしになるかもしれません。
こうした“技術と暮らしのちょうど良いバランス”を、設計者とともに探っていく姿勢が、高性能で豊かな住まいづくりへの第一歩です。
まとめ|“性能×デザイン”の家づくりは設計力がカギ
住宅の快適性や長寿命、省エネルギー性を左右する「住宅性能」は、単に高性能な断熱材や設備を導入すれば実現できるものではありません。そして、美しい外観や空間デザインも、性能とのバランスが取れてはじめて真の魅力を発揮します。
これらを両立させるために必要なのが、「設計力」です。
設計力とは、単に間取りを描く力ではありません。
以下のような力が総合的に求められます:
- 暮らしを読み解き、性能とデザインの最適解を導く提案力
- 敷地の特性や地域の気候を読み取り、空間に反映させる環境対応力
- デザインと構造・設備を整合させる統合力
- コストバランスと希望の優先順位を調整する判断力
設計段階でこれらをバランスよく組み立てることができれば、見た目も美しく、住み心地も快適な「本当に価値ある住まい」が実現します。
一方で、これらを考慮せずに家づくりを進めてしまうと、「見た目はいいけど冬寒い」「明るいけど西日で暑い」といった“惜しい住宅”になってしまうこともあります。
注文住宅は、人生に何度もあるものではありません。だからこそ、「性能」と「デザイン」を高いレベルで両立したいと考えるなら、経験と設計力を持ったパートナーとともに、丁寧に家づくりを進めることが大切です。
もし、あなたが高性能かつ美しい住まいを求めているのなら、ぜひ一度、設計事務所に相談してみてください。
理想の暮らしを叶える住まいづくりは、信頼できる設計者との対話から始まります。
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