狭小地でも快適に暮らせる?都市部で建てる3階建て住宅のメリット・デメリット

都市部で家を建てようと考えたとき、多くの方が最初にぶつかるのが「土地が狭い」「土地代が高い」といった敷地条件の問題です。駅から近い便利な場所であればあるほど、建てられる家の広さには制限が出てきます。
そんな中で注目されているのが、「敷地を縦方向に活かす」3階建て住宅という選択肢です。

特に子育て世代の30〜40代夫婦にとっては、将来的なライフスタイルの変化や家族構成の変化にも対応できる3階建て住宅は魅力的に映るでしょう。
しかしその一方で、

  • 「階段の昇り降りが将来きつくなりそう…」
  • 「建築費が高くなるのでは?」
  • 「設計が難しそうで不安」

といった疑問や不安の声も少なくありません。

そこで本記事では、実際に設計に関わってきた建築士としての視点から、都市部で建てる3階建て住宅のメリットとデメリットをわかりやすく解説します。
さらに、狭小地でも快適に暮らすための設計の工夫や、3階建てが向いている人・向いていない人の特徴についても紹介します。

「都市部で注文住宅を建てたいけれど、3階建てにするべきか迷っている」
そんな方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

都市部で3階建て住宅が選ばれる理由

都市部、とくに名古屋・東京・大阪などの中心部や周辺エリアでは、利便性の高い場所ほど土地の価格が高騰し、広い敷地を確保することが難しくなっています。
そのような状況の中で、限られた土地でも快適な暮らしを実現する手段として注目されているのが「3階建て住宅」です。

ここでは、なぜ都市部で3階建てが選ばれるのか、その背景とメリットを詳しく見ていきます。


狭小地でも必要な床面積を確保できる

都市部では20坪以下の狭小地や、間口の狭い敷地で家を建てるケースも少なくありません。
2階建てで家を建てようとすると、1フロアの面積が限られるため、リビング・寝室・収納などをすべて収めるのは難しくなる場合があります。

一方、3階建てにすることで延床面積を大きく確保できるため、家族4人でも十分な居住空間を確保可能です。

例:15坪の土地に建てる場合
・2階建て → 約30坪(約100㎡)の延床面積
・3階建て → 約45坪(約150㎡)の延床面積

このように、縦の空間を活用することで、狭い土地でもゆとりある暮らしが実現できます。


容積率や建ぺい率を活かして敷地を最大限活用

都市計画区域内では、建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)や容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)といった法律上の制限があり、それをどう活かすかが設計のポイントになります。

たとえば、第一種住居地域などでは容積率が100〜500%までの範囲で設定されていますが、これを活かして3階建てを選ぶことで、建築可能な延床面積を最大限まで引き出せます。

つまり、3階建ては法律で許された範囲内で最大限に床面積を確保するための選択肢としても理にかなっています。


土地価格の高いエリアほど「建物で価値を確保」する必要がある

土地の価格が高い都市部では、「広さ」よりも「利便性や立地」を優先して土地を選ぶ方が多い傾向があります。
このとき、建物の工夫で暮らしやすさや資産価値を高めることが求められます。

3階建ては、同じ土地でも床面積を増やせるぶん、
・収納や書斎などの空間を設けやすい
・二世帯や親との同居にも対応しやすい
・将来的な価値の維持にもつながる
といった住まいの「質」や「多様性」を高める効果があります。

3階建て住宅のメリット

都市部や駅近などの利便性の高い場所に家を建てたいと考える方にとって、3階建ては非常に現実的かつ有効な選択肢です。
ここでは、設計の視点から見た3階建て住宅の主なメリットを詳しく解説します。


1. 限られた土地でも十分な床面積を確保できる

最大のメリットは、敷地が狭くても居住空間をしっかり確保できるという点です。
たとえば、15〜20坪程度の土地に2階建てを建てた場合、部屋数や収納、リビングの広さに制約が出てしまいます。
しかし3階建てにすることで、延床面積を40坪以上確保することも可能になり、

  • 家族それぞれの個室を設けられる
  • 十分な収納スペースを確保できる
  • ワークスペースや趣味の部屋も設けやすい

など、暮らしの質を落とさずに家を建てられるのが大きな魅力です。


2. 間取りの自由度が高まる

3フロアに分けることで、フロアごとに役割分担がしやすくなるのもメリットです。

たとえば:

  • 1階:玄関・水回り・駐車スペース
  • 2階:LDK(家族が集まる空間)
  • 3階:寝室や子ども部屋などのプライベート空間

といった具合に、生活動線を縦に分けることで暮らしやすさが向上します。

あるいは

  • 1階:事務所
  • 2階:LDK(家族が集まる空間)、水回り
  • 3階:寝室や子ども部屋などのプライベート空間

のように、仕事と居住スペースを階によって明確に分けることも可能です。


とくに「在宅ワーク」と「家族の生活」を分けたい世帯や、「親との同居」を考える家庭にとっては、3階建ては非常に効果的な構成が可能です


3. 駐車場スペースの確保(ビルトインガレージ)

都市部では駐車場付きの土地を探すのも一苦労です。
3階建て住宅では、1階部分にビルトインガレージ(建物の中に車庫を組み込む設計)を採用することで、狭い敷地でも駐車スペースを確保することができます。

  • 雨の日も濡れずに乗り降りできる
  • 車へのいたずらや盗難のリスクが減る
  • 建ぺい率の緩和が適用される可能性がある

但し、1階に駐車場を設けた場合は、一番人目につく部分が、無機質な駐車場になってしまうので、外観デザイン上の工夫が必要なになるところですね。


3階建て住宅のデメリット

3階建て住宅は狭小地でも広さを確保できる点で魅力的ですが、すべての人にとって完璧な選択肢というわけではありません。
メリットとあわせて、あらかじめ知っておきたい注意点やデメリットを理解しておくことで、後悔のない家づくりにつながります。


1. 階段移動の負担が大きい

3階建て住宅の最大のネックは、階段の昇り降りが日常生活の負担になる可能性があることです。

  • 買い物後の荷物を持って3階まで上がる
  • 子育て中は何度も上下階を往復する
  • 将来的に高齢になると移動がつらく感じる可能性がある

とくに30〜40代で建てた家に、将来も長く暮らすことを前提に考えるなら、動線計画や階段の位置、階段の勾配などに工夫が必要です。



2. 法的規制により設計の自由度が制限されることも

都市部で3階建てを建てる場合、建築基準法・都市計画法による制限を受けやすくなります。

  • 高さ制限(絶対高さ制限・道路斜線制限など)
  • 隣地との日影規制
  • 準防火地域・防火地域での防火仕様の義務
  • 建ぺい率・容積率の制約

これらの規制をクリアするために、設計上の工夫やコストが必要になる場合があるため、経験のある建築士に相談することが重要です。


3. 採光・通風に注意が必要な場合も

縦に長い構成になる3階建ては、フロアによって採光や通風の条件が異なりやすいという特徴があります。

  • 1階は隣家の影響で暗くなりやすい
  • 風通しが悪く、湿気がこもることも
  • 上階と下階の温度差が大きくなりやすい(特に夏)

そのため、吹き抜けや階段の位置、窓の取り方、換気計画などで快適性を保つ工夫が欠かせません

4.上下階での温度差が生じやすい

3階建て住宅では、1階と3階で室温に差が出やすいことがあります。特に夏場は3階が熱気で暑くなり、冬場は1階が冷えやすいといった傾向があり、居住の快適性に影響を与えることがあります。

このような温度差は、断熱性能や気密性の強化、計画的な空調・換気システムの導入である程度コントロールできます。また、空調方式を工夫することで上下階の温度ムラを抑え、快適な住環境を維持することが可能です

快適に暮らすための設計ポイント

3階建て住宅は、十分な居住空間を確保できる一方で、設計時に少しの工夫を怠ると不便や不快さを感じることもあります。
快適に暮らすためには、動線・通風・採光などにしっかり配慮することが不可欠です。
ここでは、3階建て住宅を快適に住みやすくするための設計ポイントを具体的に紹介します。


1. 生活動線の工夫

3階建て住宅では、階段の移動が頻繁になるため、家全体の動線をスムーズにすることが非常に重要です。
特に注意すべきポイントは以下の通りです。

・階段の位置と配置を工夫する

階段は生活の中で最も使う場所の一つです。階段をどこに配置するかによって、家全体の動線が大きく変わります。

  • なるべく中心に配置し、上下階の移動をスムーズにする
  • 玄関近くやリビング近くに配置することで、無駄な移動を減らす

階段を使いやすい場所に配置することで、家事や日常生活の動きが楽になり、時間と労力を節約できます。

・水回り等の家事動線を工夫する

水回り(キッチン、洗面・脱衣、バスルーム)は、頻繁に使用するため、動線において重要な役割を果たします。

  • 1階や2階に水回りを集め、家事動線が階段を昇り降りせずに済むように設計
  • 物干しが必要な場合は、洗濯室とベランダを同じ階に設け、洗濯動線をスムーズに

これにより、日々の生活が無駄なく効率的になります。


2. 通風と採光の確保

3階建て住宅では、狭小地が多いため、各階ごとの通風と採光が重要なポイントになります。
以下のように設計することで、家全体が快適に過ごせる空間になります。

・吹き抜けを活用して風通しを良くする

縦に長い3階建て住宅では、1階から3階まで空気の流れを作ることが非常に重要です。
吹き抜けを設けることで、1階と3階の空気が自然に循環し、風通しが良くなり、湿気や温度差の軽減にもつながります。

・窓の位置と取り方に配慮する

狭小地の場合、道路側以外の面は隣家が迫っているため、自然光を取り入れるために、窓の配置を工夫することが必要です。

  • 1階は隣家の影響を受けやすいため、できるだけ高い位置に窓を設ける
  • 3方向に隣家が迫っている場合は、中庭を設けて、庭からの採光を工夫する
  • 敷地の向きにより、日当たりが悪い場合は、吹き抜けを設け、トップライトで明るさを確保する

・風の流れを意識した開口部配置

風通しを良くするために、開口部を適切に配置することも大切です。

  • 各階に風が通るように窓を対角線上に配置
  • 風向きを考慮し、換気をスムーズに行えるような配置にする

3. 階による温度バラツキを防ぐ

3階建て住宅では上下階で温度差が生じやすいという課題があります。特に夏場は3階が暑くなりやすく、冬場は1階が冷えやすい傾向があります。しかし、設計や設備面での工夫によってこの問題は十分に解消可能です。以下に、温度差を抑えるための主な防止策をまとめます。

🔳 断熱・気密性能を高める(基本中の基本)


断熱材を適切に施工し、窓や開口部も高性能なもの(例:Low-E複層ガラス)を採用することで、屋外からの熱の出入りを最小限に抑え、温度差を小さく保てます

  • 屋根・最上階の天井は特に断熱強化が必要(夏の熱気対策)
  • 気密施工をすることで冬の冷気を防止
  • 高性能樹脂サッシやトリプルガラスの採用も効果的

🔳 空気の循環を考慮した換気計画

3階建てでは上下階で空気が滞留しやすくなります。そこで、計画換気(第1種換気など)や通風経路の工夫で、室内の空気をゆるやかに循環させます。

  • 各階に排気・給気のバランスを取る
  • 天井や壁に空気の抜け道(ガラリ、ダクト)を設ける
  • 空調連動型の換気システムを使えば効果的


🔳 吹き抜けがある場合は、床下エアコンや小屋裏エアコンの活用

設計段階から考慮できる場合は、床下エアコン(1階から全体を暖める)や小屋裏エアコン(3階から全体を冷やす)が有効です。設計にもよりますが、建物全体を包むような温度調整が可能になります。

  • 暖かい空気は上へ、冷たい空気は下へ流れる特性を活かす
  • 温度ムラの少ない全館空調に近い快適性を実現可能


3階建て住宅に向いている人・向いていない人

3階建て住宅は、都市部で土地が狭い場合や、家族のライフスタイルに合わせた特別な設計が求められるケースで非常に有効です。しかし、すべての人に最適というわけではありません。
自分たちの生活のスタイルや将来を見据えて、3階建て住宅が向いているのか、それとも他の選択肢がベターなのかを理解することが重要です。


3階建て住宅に向いている人

1. 都市部に住む予定がある人

都市部では、土地の広さが限られているため、横に広げるのではなく、縦に広げることが現実的です。
3階建て住宅は、狭小地でも十分な居住空間を確保できるため、都市部に家を建てる予定の方に最適です。

  • 土地が狭くても十分な生活空間を確保したい
  • 近隣の住宅と敷地が狭くても、敷地内で高さを活かして住みたい

2. 二世帯住宅・事務所、店舗など多用途に使いたい人

3階建ては、フロアごとに用途を区切ることも可能です。

例えば、1階を親世帯、2、3階を子世帯が使うケース、1階を事務所や、美容室などの店舗とし、2、3階を居住スペースにする、いわゆる店舗併用型の住宅として使うことができます。

3階建て住宅に向いていない人

1. 階段の昇り降りが負担に感じる人

3階建て住宅の最大のデメリットは、階段を頻繁に使う点です。
階段を昇り降りすることが多く、体力的に負担がかかる人や、高齢者がいる家庭には向いていません。

  • 腰痛や膝に不安がある人
  • 子どもや高齢者が多い家庭

特に将来的に体力が衰えてくることを考えると、階段の多い家は快適に感じなくなる可能性があります。

2. 広い庭や屋外スペースを重視する人

3階建て住宅は、縦の空間を有効活用する一方で、庭や屋外スペースが狭くなりがちです。

  • 子どもが庭で遊ぶことを重視している
  • ガーデニングや家庭菜園が趣味

こうした屋外での活動を重視する人にとって、3階建て住宅は広い庭を持つことが難しいため、別の選択肢を考えることをおすすめします。

まとめ|3階建て住宅は都市部での暮らしを快適にする選択肢

都市部での住まい選びは、土地の広さや周囲の環境によって大きく左右されます。特に都市部では土地が限られているため、横に広がる家づくりは難しく、その代わりに縦に広がる3階建て住宅が注目されているのです。
3階建て住宅は、限られた土地面積を最大限に活用でき、生活空間を確保しつつ、家族全員のプライバシーを守りながら快適に暮らせるという大きな利点があります。




家づくりのご相談はこちらからお気軽にどうぞ

都市部での家づくりは、限られた敷地をどう活かすかが大きな鍵になります。
足立和太建築設計室では、狭小地や変形地などでも快適な暮らしを叶える住まいを、一組一組丁寧に設計しています。

「わが家の場合、3階建ては向いている?」
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