共働き・子育て世代が建てる家|30代のための間取りと家事動線の工夫

30代で家を建てようと考えるご家族の多くは、仕事と育児の両立という大きなテーマの中で日々奮闘しています。朝は子どもの支度と出勤準備に追われ、帰宅後は食事の用意・お風呂・寝かしつけと、分刻みで動く毎日。そんなライフスタイルを支える住まいには、「暮らしやすさ」を叶える具体的な工夫が求められます。

とはいえ、家づくりを考え始めた段階では、「どこに注意すればいいのか」「どんな間取りが合うのか」が分からないという声も少なくありません。多忙な生活の中では、小さなストレスが積み重なりやすく、それを事前に読み取って設計に落とし込むことが、私たち建築士の役割だと考えています。

このコラムでは、共働き・子育て世代の方々が直面しやすい住まいの悩みを具体的に整理し、設計者の立場からその解決策をご提案します。これから家づくりを検討される方が、「本当に必要な間取りとは何か」を考えるきっかけになることを目指しています。

目次

1. 共働き・子育て世代の家づくりが注目される背景

現代の30代は、共働きが“当たり前”の時代に生きています。総務省の統計によると、子育て世代(30〜40代)の約7割が共働き世帯となっており、特に第一子を出産した後も夫婦共に仕事を続ける家庭が増加傾向にあります。

このような社会状況の変化により、住まいに求められる役割も大きく変わりました。かつてのように「休日にくつろげる家」だけでは不十分で、平日の忙しさを吸収し、生活を合理的にサポートする“ツールとしての家”が求められているのです。

たとえば、以下のような課題は、多くの共働き・子育て家庭で共通しています。

  • 限られた朝晩の時間での家事・育児の同時進行
  • 夫婦の生活時間のズレによるストレス
  • 子どもの年齢に応じて変化する生活リズムや空間の使い方

こうした課題に対して、住宅設計の側からできるアプローチが「動線計画」「ゾーニング」「視線・音・温熱環境の制御」といった専門的な視点です。建築士としての役割は、住まい手の悩みや生活像を丁寧に読み解き、それを空間として最適化することにあります。

つまり、共働き・子育て世代の家づくりが注目される背景には、単にライフスタイルの変化だけでなく、「住宅がその暮らしにどこまで寄り添えるか」という住まいの機能的再評価があると言えます。

2. 実際に寄せられる間取りの悩みとその要因

家づくりの設計相談を受ける中で、共働き・子育て世代の方から頻繁に聞かれるのは、「家事や育児を効率的にこなしたいのに、今の間取りではうまくいかない」という悩みです。
こうした悩みの背景には、日常の細かな動きや時間帯による混雑、視線や気配りの難しさなど、実際に暮らしてみないと分からない要素が複雑に絡んでいます。

以下は、具体的によく寄せられる悩みとその原因を建築的な観点から整理したものです。


1. 朝の洗面所渋滞

悩み: 朝の支度時間に洗面所が混雑し、家族で取り合いになる
要因: 洗面台が1箇所のみ、通路幅が狭い、収納が不足していて動きが滞る

→ 時間帯による“利用集中”を想定して設計していないケースが多い。洗面所は2人以上が同時使用できる広さとレイアウトが必要。


2. 洗濯動線が長い・途切れている

悩み: 洗濯後の動きが複雑で面倒。干す・たたむ・しまうの距離が長い
要因: 脱衣室・物干し・収納の位置がバラバラで移動が多い

→ 洗濯は「動作の連続性」が鍵。動線を一直線にし、ファミリークロークまでスムーズにつなげる設計が求められる。


3. 子どもをお風呂に入れるときに目が離せない

悩み: 夕食準備中にお風呂の子どもの様子が見えない、不安。また、乳幼児のケースでは、リビングから浴室への動線が長くて大変。特に子供が2人の場合はパニックに。
要因: キッチンと浴室・脱衣室が離れており、音も届きにくい構造

→ 家事の“同時進行”を可能にするためには、キッチンと脱衣室を近接させ、視線や声が届く範囲に配置することが重要。


4. 玄関が物であふれる

悩み: ベビーカーや子ども用の靴・リュックが散乱して片付かない
要因: 収納量不足、土間空間の面積が足りない、動線と収納が連動していない

→ 玄関まわりには、通過型の土間収納や家族専用の動線を設けると、使いやすさが一気に向上する。


5. 買い物帰りの荷物を運ぶのが大変

悩み: 重い買い物袋を持って遠いキッチンまで運ぶのが負担
要因: 玄関とキッチンの位置関係が遠い、収納(パントリー)が玄関から離れている

→ 「食材の動線」も設計に含めるべき。買い物の動きをシミュレーションして配置することで、日々の負担が減る。



6. 子どもの行動が見えず不安

悩み: キッチンからリビングの子どもの様子が見えない
要因: 間取りや家具の配置で視線が遮られている

→ “動線”だけでなく“視線の抜け”を設計に組み込むことで、家事中の見守りストレスが軽減できる。


7. 成長とともに収納が足りなくなる

悩み: おもちゃ・学用品・服がどんどん増え、片付かない
要因: 収納の「量」と「使い方」の両面が不足している

→ 将来的な物量増加を見越した可変的な収納、ゾーン分けされた収納が求められる。


このように、「暮らしのリズムにフィットしていない間取り」が、日々のストレスや非効率の原因になっています。次のセクションでは、これらの悩みを建築的にどう解決するかを詳しく解説します。

3. 暮らしやすさを生む、建築的な動線設計のポイント

忙しい共働き・子育て世帯にとって、「毎日繰り返される動作」を効率的に支えることは、住宅の設計における重要課題です。ここでは、建築設計の視点から、実際に取り入れるべき動線設計の要点を、以下の4つの考え方に整理してご紹介します。


1. 時間帯別の行動を「切り分ける」動線設計

家庭内の活動は時間帯によって大きく変化します。たとえば、朝は洗面・着替え・食事が集中する“混雑時間帯”。この時間帯に同じ空間や動線が重なると、ストレスが増大します。
→ 洗面と脱衣室を分けたり、寝室から直接アクセスできる動線を追加するなど、「分離」と「並列化」によって同時進行を支えます。


2. 家事の「工程」を空間につなげるレイアウト

洗濯や調理といった家事は、単独の作業ではなく、複数の工程が連続するプロセスです。

例:

  • 洗濯機 → 室内干し → 収納(ファミリークローク)
  • 玄関 → パントリー → キッチン

このように「作業の順番」に沿って空間を配置することで、動きのムダを最小限に抑える設計が実現できます。さらに湿気対策(換気・採光)や、収納の出し入れ方向も配慮すると、使い勝手が格段に向上します。


3. 家族ごとの“使い分け”ができる二重動線

家族が同時に異なる動きをすることを想定した「2WAY動線」「回遊動線」は、共働き世帯に特に有効です。

  • 玄関 → 洗面・脱衣 → リビング の帰宅動線
  • 玄関 → パントリー → キッチン の買い物動線

このように動線を分けることで、1本の廊下に人が集中せず、衝突のない動きが可能になります。
加えて、子どもの成長や生活スタイルの変化に合わせて動線の意味を変えられるようにしておく(例:将来のワークスペースへの転用)と、長期的な住みやすさにもつながります。


4. 「視線」も動線として設計する

子育て世代の住まいでは、「目の届く範囲」も非常に重要な動線のひとつです。

  • キッチンからリビング、スタディスペースが見渡せるか
  • 書斎や在宅ワークスペースから子どもの様子が感じられるか

こうした「視線動線」を間取りに織り込むことで、単なる効率だけでなく、安心感やつながりも設計に取り込むことができます。家具や間仕切りの高さ・配置にも配慮が必要です。


専門的な補足:動線設計の実務上のポイント

  • 1日をシミュレーションして設計に落とし込む:朝・帰宅後・就寝前など時間帯ごとの行動を書き出す
  • 交差と滞留を避ける:通路幅(最低75cm、理想は90cm)と曲がり角での見通しを確保
  • 「行き止まりのない動線」を意識:子どもが走り回っても安心な回遊性
  • 家族構成の変化を想定した「動線の可変性」:将来の使い方変更に耐えられる柔軟なゾーニング

このように、暮らしの中の“行動の流れ”を的確に把握し、それを空間でなぞるように設計することで、住まいは単なる「箱」から、「暮らしを支える道具」へと進化します。

4. 設計士が勧める「子育てと家事」を支える間取りアイデア

子育てと家事の同時進行は、想像以上に高度な「マルチタスク」。限られた時間と視界の中で家族の行動を支えるためには、「場所の配置」+「使い方の連携」+「将来への対応力」を同時に設計する必要があります。ここでは、建築設計者の立場から、実際に提案している間取りのアイデアを具体的に紹介します。


1. 洗面台は“2人並べる広さ”+“脱衣室との分離”をセットで設計

  • 洗面は幅120~160cm以上を確保。朝の渋滞緩和には、鏡とコンセントを2か所設けるのが基本。
  • 洗面を廊下に設けるのも混雑の回避になり、出かける直前の身支度もスムーズに。
  • 脱衣室とは扉で分けてプライバシーを守ると、家族同時利用がしやすくなります。
  • 洗面スペースにもタオル・下着の収納があると動線が短縮されます。

2. 洗濯動線は「干す・しまう」までの連続性+空調制御がカギ

  • 洗濯→室内干し→ファミリークロークまでを一直線または回遊動線に配置。
  • 室内干しスペースには除湿機設置や換気扇の設計も合わせて検討。
  • 収納には「家族全員分の一時置き」が可能な広さを確保し、衣類管理の労力を削減

3. お風呂サポートは“音”と“距離”に注目

  • 脱衣室をキッチンやダイニングに近接させることで、料理中でも子どもの入浴サポートがしやすく。
  • かといって浴室が近すぎるとシャワー音や子供を洗う際の声が響いたりするので、適度な距離感も必要。
  • 換気扇や浴室暖房の操作パネルはキッチン付近にも設けると便利です。

4. 玄関は“回遊型+収納付き”で時短・ストレス減

  • 通り抜けできる家族用動線(シューズクローク〜ファミリークローク)を設けると、片付けが習慣化しやすい。
  • ベビーカー、子どものアウター、ランドセルなど、毎日出し入れする物の居場所を玄関付近に確保。
  • 玄関から洗面への動線を確保しておくと、外遊び後の手洗い習慣もスムーズに。

5. パントリー+冷蔵庫の「買い物収納動線」を短く

  • パントリーは玄関〜キッチンの間に配置し、買い物帰りの荷物をスムーズに収納。
  • 冷蔵庫はキッチンの奥ではなく、回遊途中に立ち寄れる位置にすると家族も使いやすくなります。
  • 日用品(洗剤・ティッシュ)と食品を分けてゾーニング収納すると管理しやすい。

6. キッチンは“作業しやすさ”と“家族との交差”を両立

  • 通路幅は90〜100cm以上を確保し、すれ違いや子どもの往来にも対応。
  • 回遊性を持たせることで、在宅ワーク中の夫や子どもの動線が交錯しにくくなります。
  • 子どもが配膳を手伝いやすいように、ダイニングテーブルとの位置関係にも配慮

7. 見守り視点の「ゾーニング」と「視線の抜け」

  • スタディコーナーはキッチン・ダイニングから見える位置に設置。
  • リビングと階段がつながることで、上下階での気配を感じる暮らしが可能に。
  • 収納や仕切りも“目線の高さ”を意識して配置することで、安心感と集中のバランスを保てます。

専門家の視点:将来を見越した“変化対応型”間取り

  • クロークやワークスペースは用途変更を前提にした設計が有効(→ 子ども部屋、書斎への転用)。
  • 子どもが独立した後は、ゲストルームや趣味室あるいは二世帯化にできる構成も視野に。
  • 設計段階でライフステージごとの可変性を組み込むことが、30代の家づくりには不可欠です。

このように、単に便利な動線や設備を並べるのではなく、家族の行動・心理・将来の変化まで見据えて空間を設計することが、本当に“子育てしやすい家”をつくるためのポイントです。

5. まとめ:30代の家づくりで大切にしたい視点

30代での家づくりは、「子育て・家事・仕事」のトリプルタスクを支えるための暮らしの基盤づくりとも言えます。この世代の住宅設計では、単に間取りの機能性だけでなく、以下の3つの視点が重要です。


① 現在の生活に「フィット」する動線計画

  • 家事のしやすさはもちろん、夫婦の生活リズムの違い子どもの年齢による動線変化まで想定した設計が求められます。
  • 「すれ違える通路幅」「回遊できる家事動線」「並行作業ができる配置」など、立体的かつ時間軸を含めた動線設計がポイントになります。

② 家族の成長に「対応できる」可変性

  • 間取りは一度つくって終わりではなく、家族構成や生活スタイルの変化に柔軟に対応できる設計であることが理想です。
  • 例えば、クロークを将来の子ども部屋に転用できるように設計しておく、在宅ワーク用スペースが書斎にもなるように配線計画をしておくなど、数年後を見越した可変性が安心につながります。

③ 暮らし全体の「視認性と心理的つながり」

  • 特に小さなお子さんがいる場合、どこからでも家族の様子が把握できる空間のつながりが重要になります。
  • キッチンからリビング、リビングから階段、階段から2階の気配が感じられる構成は、安心感とストレス軽減につながります。
  • この視認性は単なる“見える・見えない”だけでなく、壁の抜き方、仕切りの高さ、光の入り方によってコントロールできます。

設計者の立場からひとこと

30代の家づくりは、限られた資金や時間の中で最大限の成果を求められる、いわば“設計密度”の高いプロジェクトです。だからこそ、表面的な間取りの流行ではなく、自分たちの生活の中身に根ざしたプランが必要です。

「何をどこに置きたいか」ではなく、「どんな時に、どう動き、どう感じるか」をもとに設計を組み立てていくと、家は暮らしの中で“働いてくれる存在”になります。

家づくりを「忙しい日常の味方」にしたい方へ

毎日の暮らしを支える間取りや動線設計は、家族ごとに正解が異なります。足立和太建築設計室では、共働き・子育て世代のご家族とじっくり対話しながら、生活スタイルに寄り添った設計をご提案しています。

「自分たちの場合はどうなるの?」と気になった方は、お気軽にご相談ください。

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