33:家の”性能”って何?
家に”性能”があると知っている方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
特に古い家にお住まいの方はご存じない方が多いのではないかと思います。
30年ほど前までは、家に”性能”があるなんて、設計をしている僕ですら当時はあまり意識していませんでした。
近頃では、家の新築をお考えのかたは、みなさんYouTubeやNETでいろいろ勉強されているので、家の性能についてはずいぶんお詳しいのではないかと思います。
古い木造の家は、冬はとても寒いです。でも現在の木造の家はずいぶんと暖かいのですが、これは家の性能の違いです。
また、地震のニュースを見ていますと、不幸にも倒壊したしまった家と、全くびくともしていない家がありますが、これも家の性能の違いです。
今回はこの家の”性能”についてのお話です。
目次
■家の”性能”とは
家の性能には、大きく分けると「安全性」と「快適性」と「経済性」の3つがあります。
「安全性」とは地震とか台風そして火事などに対してどれだけ抵抗できるか、安全を確保できるかという性能です。
まず「地震」に対しては「耐震性能」で、「台風」に対しては「耐風性能」で、そして「周囲の火災」に対しては「防火性能」で評価します。
次に「快適性」ですが、これには「断熱性能」と「気密性能」で評価します。
最後に「経済性」では「省エネ性能」という評価基準があります。
この省エネ性能は、断熱性能とも密接に関係していますので、快適性の評価基準にもなります。
このように家にはさまざまな性能があるわけですが、このほとんどは、家を建てる側がどの程度の性能にしたいかによって決めることができます。
建築には「建築基準法」という法律があり、様々な基準が決められてはいますが、この基準はあくまでも「最低ここまではしてくださいね」という最低の基準を示すものであり、十分ではありません。
ですから、性能に対する意識の低い工務店あるいは設計事務所に家を頼んだ場合は、最低基準で建てられてしまうこともありうるわけです。
それでも悪くはありませんが、性能の良い家をお望みの場合は、工務店、設計事務所にどれほどの性能の家ににしたいかをしっかり伝える必要があるわけです。
それでは、各項目について詳しく見ていきましょう。
安全性について
耐震性能
耐震性能とは、地震が発生した時の揺れに対してどれほど耐えられるかの基準を言います。
耐震性能が高いほど、揺れに強く倒壊もしくは破損しにくくなります。
この耐震性能を評価する指標として、「耐震等級」があります。
この「耐震等級」は耐震等級1~耐震等級3まであります。
建築基準法で定められている耐震基準は「耐震等級1」です。
それでは各等級についてもう少し詳しくご説明します。
「耐震等級1」
建築基準法で定められた最低限の耐震性能です。震度5でもほとんど損傷はなく、震度6~7の地震でも即倒壊はしないレベルですが、
柱・梁が大破する可能性が高く、建て直しの必要性が高い。
「耐震等級2」
耐震等級1の1.25倍の強度があり、震度6強~7の地震でも一定の補修程度で住み続けられるレベルです。この等級以上だと「長期
優良住宅」としての認定が受けられます。
「耐震等級3」
耐震等級1の1.5倍の強度があり、震度6強~7の地震でも軽い補修で住み続けられるレベルです。
国交省HPより
耐震等級につきましては、昨今の地震被害を見ていましても、最高レベルの耐震等級3をお勧めします。
耐風性能
耐風性能には次の2つの等級があります。
「耐風等級1」
- きわめて稀に(500年に1度程度)発生する暴風による力に対して「倒壊」「崩壊」しない
- 稀に(50年に1度程度)発生する暴風による力に対して「損傷」しない
きわめて稀に発生する暴風とは伊勢湾台風で観測された最大瞬間風速50m/sが目安です。
「耐風等級2」
- 耐風等級1の1.2倍の強度
したがって最大瞬間風速は60m/sに耐えるということになります。
国交省HPより
防火性能
防火性能とは、建築物の周囲で発生する火災による延焼を防ぐための性能で、「防火構造」という構造が要求されます。
この防火構造は周囲からの延焼を防ぐ構造ですから、建物の外壁と軒裏に必要とされる構造です。
但し、建築地が都市計画法で「準防火地域」あるいは「防火地域」と定められていない地域であればこの「防火構造」の縛りはありません。
また、たとえ「準防火地域」「防火地域」に指定されていても敷地が広い場合はある基準を満たせば、やはり、「防火構造」の縛りはなくなります。
周囲からの延焼を防止するのが目的ですから、敷地が広ければ該当しないのは当然ですかね。
この「防火性能」のほかに「耐火性能」というものがあります。
この「耐火性能」は、建物自体の火災に対しての「燃えにくさ」のことであり、一定時間倒壊しない性能をいい、「耐火構造」という構造が要求されます。
ただ一般的な住宅では、「耐火構造」を要求されることは稀ですが、耐火構造に準じた「準耐火構造」は3階建ての住宅などには要求されることがあります。
これも先ほどのように建築地が、「準防火地域」とか「防火地域」に指定されていたり、規模または階数が多かったりなどいろいろな条件で決まってきますので、この防火性、耐火性については専門家にまかせるのが良いでしょう。
どうしても火災に強い建物が欲しいと思う方は、「耐火構造」のお家にしてほしいと設計者にお願いするのがよいかと思います。
快適性について
断熱性能
断熱とは、建物の外気に面する部分をすべて断熱材で覆ってしまい、魔法瓶のようにすることで、外部からの熱の侵入を防ぎ、内部からの熱の流出を少なくする働きをするものです。
断熱する部分は基本的に外壁面、1階の床面、最上階の天井面(天井断熱)、もしくは屋根面(屋根断熱)となります。
この断熱性能ですが、1980年(昭和55年)に「省エネ法」として初めて基準が示されました。
ですからそれ以前の住宅は断熱がほとんどされていないという状態です。そのため古い住宅はとにかく寒いのです。
かといって1980年の基準で十分暖かいかというと、全くそうではありません。
その当時は、壁の中に5cmほどの厚さのグラスウールが申し訳程度に入っているだけで、断熱に対する意識も低い時代でしたので、施工も悪く断熱性能はほとんど期待できないと思われます。
その後も法改正で下記のように強化されました。
1992年(平成4年):新省エネ基準
1999年(平成11年):次世代省エネ基準
2016年(平成28年):H28省エネ基準(この基準でも性能自体は次世代省エネ基準と大きくは変わっていません)
この次世代省エネ基準が断熱の等級でいうと「断熱等級4」となります。
この「断熱等級4」が令和3年まで、最高の等級でした。
しかし、海外に比べると、この等級でも全く不十分で、日本の住宅は寒いという評価をされていました。
さらにこうした基準があっても、義務化されているわけではありませんでしたので、すべての家が「断熱等級4」というわけでもないのです。
そして、令和4年に断熱等級は7まで創設され、ようやく本当に暖かい家ができるための断熱基準が示されたのです。
また、2025年(令和7年)には、やっと「断熱等級4以上」がすべての新築住宅に義務化されるとことになりました。
さて、断熱等級が7まで増えましたが、当然断熱性を高めればその分もコストも増えてきます。
それでは、どの断熱等級を目指すべきでしょうか。
昨今「エアコン1台で、家中暖か」といっキャッチフレーズをよく目にしますが、これはどれくらいの性能であったら実現可能なのか。
その断熱基準は、「断熱等級6」以上ということになります。
この「断熱等級6」が性能とコストのバランスが一番良いのではないかとされています。
国交省HPより
気密性能
気密性とは家の隙間から中の快適な空気が外に漏れてしまう度合いを示しています。
隙間が少ないほど漏れが少なく、性能が良いことななります。
そのため、いくら断熱性能を高めても気密性が低ければ、断熱性能が落ちてしまいます。断熱性と気密性はセットで考えたほうが良いですね。
この気密性はC値という指標で示します。
これは1㎡あたりに存在する隙間面積を示し、㎠/㎡で表します。
一般的な住宅ではC値は10㎠/㎡程度ですが、「高気密」と言われる住宅ではC値は1㎠/㎡以下のレベルになり、より少ないほうが高性能となります。
このC値は計算で出るものではなく、気密に注意を払って施工し、外壁、屋根が完了し、窓がついた段階、もしくは完成時に気密測定をして、初めて気密性能がわかります。
そのため、工事中に気密性を配慮した丁寧な工事が要求されます。
また、この気密性は鉄骨系の住宅では構造的に気密を高めることは難しく、多くの鉄骨系のハウスメーカーはC値を公表していません。
木造の場合は、気密性を配慮した工事をするとC値を1㎠/㎡以下にすることはそれほど難しくなく、0.2㎠/㎡といった高性能な家もあります。
C値の目標としては、1㎠/㎡をきることでしょうか。
経済性について
省エネ性能
家庭のエネルギー消費で、約30%を占めているのが冷暖房費です。
省エネ性能の高い住宅は、冷暖房のエネルギーの消費を抑えることのできるため経済性の良い住宅であるということができます。
この省エネ性能は 冬に熱を逃がさない「断熱」と、夏においては日射による熱を侵入させない「日射遮蔽」、そして「気密」の3つが対策の柱となります。
こうした対策により、冬は部屋中暖かく、夏は日差しが遮断され涼しく、小型エアコンで快適な生活ができるわけです。
さて、この中で「断熱」は快適性の中でご説明しましたが、住宅の断熱性能は「外皮平均熱貫流率」で示され、「Ua値」という指標で示されます。
このUa値は、住宅内部と外部の温度差が1度あるときに、内部から外皮(屋根や外壁、床、窓等)を伝わって、外部へ逃げる熱量の合計を外皮面積で割った数値です。
この数値が小さいほど熱が逃げにくいわけですから、断熱性能が高い・省エネルギー性能が高い住宅と言えます。
また、日本は外気温の地域差が大きいため、全国を8つの地域に分けて、それぞれに地域ごとにUa値の基準を定めています。
名古屋であれば地域区分は6となります。
2025年から義務化される「断熱等級4」のUa値は地域区分6の名古屋では0.87となり、前述したコストバランスの良い「断熱等級6」であればUa値は0.46となります。
次に「日射遮蔽」についてですが、この外部からの「日射」が夏に室内の温度が上がる最も大きな要因となります。
そのため、夏は、日射を遮蔽し、室温の上昇を抑えることで、冷房に必要なエネルギーを削減することができます。
一方、冬は日射をできるだけ多く取り入れることで室内を日射によって暖め、暖房コストを削減することができます。
上手な設計とは、夏に日射を遮断し、冬に日射を多く取り入れることができるように建物の計画をするということです。
さて、この日射遮蔽は「ηAC(イータエーシー)」という指標で示されます。
この数値が小さいほど省エネ性能が優れています。
先ほどの「断熱等級4」ではηAC値は2.8、「断熱等級6」でもηAC値は2.8です。
それでは経済性についてですが、省エネ基準の「断熱等級4」のエネルギーコストを100とすると、「断熱等級6」のエネルギーコストは30%減の70ということになります。
「断熱等級4」との比較で30%減ですが、現在の住宅のほとんどは「断熱等級4」にも満たない断熱性の悪い状況を踏まえると、かなりエネルギーコストは下がると考えてよいと言えます。
鳥取県が独自に省エネ基準を設定されています。
参考までにご紹介しますね。
鳥取県での推奨レベルはちょっと厳しめですね。
断熱等級で言いますと、6と7の間になります。
このように見てきますと建物の性能にいろいろなランクがあり、どのランクを目指すかはなかなか難しそうですね。
このランクは最終的には住まう方が決める必要がありますので、専門家に相談しながら、そして勉強しながらお決めいただければと思います。
まとめ
家の性能には、「安全性」、「快適性」、「経済性」の3つがあります。
- 「安全性」には「耐震性能」・「耐風性能」・「防火性能」の3つがあり、そのうち「耐震性能」と「耐風性能」はそれぞれ「耐震等級」と「耐風等級」という指標で強度のレベルが決められており、「防火性能」については「防火構造」と「耐火構造」という規定があります。
1)「耐震等級」は地震に対する強度で等級は1~3まであります。地震国の日本では是非「耐震等級3」で建築することをお勧めします。
2)「耐風等級」は耐風等、風に対する強度で等級は1と2です。
3)「防火構造」は周囲からの延焼を防ぐ構造で、建物の外壁と軒裏に必要とされる構造です。
4)「耐火構造」は建物自体を火災に対して燃えにくくし、一定時間倒壊しない構造をいいます。
「防火構造」「耐火構造」については、建築基準法で細かく規定されていますので、専門家に任せればよいのですが、特に火災に強い家をご希望の場合は、設計者に「耐火構造」にしたいと伝える必要があります。
- 「快適性」には「断熱性能」と「気密性能」があります。
1)断熱性能」は「断熱等級」でレベルが示され、この等級は4を基準とし、最高レベルは7となります。性能とコストのバランスが最も良いのは「断熱等級6」です。このレベルですと、小型のエアコン1台で家中暖かいという設計も可能となります。
2)気密性能は家の隙間の度合いをしめしており、C値で示します。「断熱等級6」のような高断熱の家を作る場合は、C値は1㎠/㎡以下のレベルを目指してください。
- 「経済性」は「省エネ性能」で評価します。この省エネ性能は「断熱」と「日射遮蔽」と「気密」の3つが対策の柱となります。
1)「断熱」は全国を8つの区域に分け、それぞれUa値で示しますが、名古屋は地域区分は「6」で「断熱等級6」を目指す場合は、Ua値は0.46となります。
2)「日射遮蔽」は夏に日射を遮蔽し、冬に日射を取得してエネルギーコストを削減するもので、設計上で配慮すべき内容です。
3)「気密」は「快適性」の中でご説明しました。
家の性能については以上ですが、これらのほとんどは基準は決められていますが、「防火性能」以外は法的に決められてはいません。
ようやく2025年から「断熱」がすべての住宅で「断熱等級4以上」が義務付けられることになりましたが、その他は全く自由です。
性能の高い家を造りたい方は、これらの内容をしっかり検討して、家づくりをしていただきたいと思います。
Categorised in: 建築設計あれこれコラム