34:繰り返される地震、制振ダンパーは必須か?
evoltzHPより掲載(上記写真)
今回は「制振」についてのお話です。
前回のコラム家の”性能”って何?
では「耐震性能」についてご説明しました。
「耐震性能」は耐震等級であらわされ、その中でも最高の等級である「耐震等級3」をお勧めしました。
この「耐震等級3」であれば、震度6強~7の地震に襲われても軽い補修で住み続けられるレベルですから安心できますね。
ただ、ここでもう少し地震について調べてみましょう。
今年の元旦に起きた「能登半島地震」では、午後4時から午後9時までに、震度7が1回、震度5強が3回、震度5弱が5回起きています。
少しさかのぼって2016年に発生した「熊本地震」では震度7が2回、震度6強が3回観測されています。
このように、地震は1回だけでななく、何回も繰り返し発生します。
「耐震等級3」の建物であれば、ほとんど損傷なく無事ではありますが、何回も揺れにあうと少しずつ家にダメージが蓄積されていきます。
そうすると、当初「耐震等級3」の性能があった家も、その後、その耐震性能が落ちて、十分な性能を発揮できなかったり、想定以上の損傷が生じたりすることが考えられます。
今回は、こうした耐震性能の劣化をどうしたら少なく抑えられるかといったことのお話です。
目次
■繰り返される地震、制振ダンパーは必須か?
耐震・制振・免震とは
耐震
地震などの揺れに耐える頑丈で強度の高い構造のことを耐震といいます。
一般的には、「筋交い」と呼ばれる斜材を柱と柱の間にバランスよく配置して揺れに抵抗させたり、「面材」と呼ばれる構造用合板を屋根や外壁、床に張り巡らし、面としての強度を高め耐震性を確保します。
この耐震性能の高い住宅は建物自体が非常に「堅い」ため、この堅さによって揺れに抵抗しているわけです。
ただ、何度も揺れに遭遇すると少しづつダメージを受け、耐震性能が劣化することが考えられ、対策が必要となります。
制振
建物内に制振装置を組み込み、地震の揺れを吸収する構造が「制振」です。
制振だけでは、強度は確保できませんので、耐震と合わせて検討する必要があります。
免震
建物本体と地中の基礎部分との間に免振装置を設け、地震による揺れと建物とを切り離すことで、建物に地震の揺れを直接伝えない構造のことです。
この構造はコストも莫大で、住宅にはほとんど使われません。
大規模なビルに採用される構造といえます。
さて、ここで、耐震の劣化を防ぐ方法としては、制振と免震があるわけですが、免震はコストが高く、住宅にはほぼ採用されませんので、「制振」を検討するのがよいということになります。
「耐震」+「制振」この組み合わせが耐震性能の劣化を抑える良い方法といえそうです。
「耐震等級3」の住宅だからといって安心できません。この性能を長持ちさせるためには、「制振装置」により大地震だけではなく、強風からも建物を守り、「揺れ」からのダメージを極力少なくするように考えたいと思います。
そしてこの「制振装置」のことを「制振ダンパー」といいます。
それでは、制振ダンパーについて詳しくみていきましょう。
制振ダンパーのいろいろ
油圧(オイル)系ダンパー
これはオイルが入ったシリンダー内をピストンが移動する際に、オイルがピストンに抵抗することを利用して揺れを吸収します。
以前は高価でしたが、現在は価格もおさえられてきています。
特に劣化しにくく、小さな揺れから大きな揺れまで幅広く対応できるのが大きなメリットです。
(株)evoltz
ゴム系ダンパー
ゴムやアクリル、シリコン、アスファルトといった弾力性・伸縮性のある素材を用いて、地震などによる揺れを吸収するものです。
繰り返しの揺れにも効果を発揮しやすいことがメリットですが、温度によって硬さが変化するため、温度変化が激しいと劣化が早まり、期待される制振性能を十分に発揮できないというリスクがあるのがデメリットです。
住友理工(株)
金属系ダンパー
金属からつくられるこダンパーは、揺れによって金属が曲がることによるエネルギーを熱エネルギーに変換することで、地震による揺れを吸収します。
比較的安価であることがメリットですが、繰り返しの揺れによって劣化して効果が薄れていく点がデメリットです。
日軽金アクト(株)
まとめ
地震災害の多い日本では、耐震性能の高い家を建てなければなりません。
さらに、地震による揺れは、何度も繰り返し起きるということも考えに入れなければなりません。
耐震性能は「耐震等級3」をお勧めしますが、これだけでは繰り返しの揺れによって、少しづつダメージを受け、当初の強度を保つことが難しくなってきます。
こうしたことから、揺れを吸収してくれる「制振ダンパー」を合わせて組み入れることで、揺れによるダメージを抑え、耐震性能をより長く保つようにすることがとても重要だと思います。
制振ダンパーには、「油圧系ダンパー」・「ゴム系ダンパー」・「金属系ダンパー」の3種類がありますが、何を採用するかは設計の専門家と相談して決められるのが良いと思います。
私の事務所では、繰り返しの揺れにも強く、劣化のしにくい「油圧系ダンパー」を採用しています。
「耐震」+「制振」この考え方が地震の多い日本では、一番良いのではないかと思います。
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