35:換気設備、本当に効かせるためには
三菱換気扇型HPより
今回は「換気設備」についてのお話です。
コロナが流行った時期には、「換気」が大事だとさかんに言われました。
窓を開けての換気は自然換気、換気扇を廻しての換気は機械換気、そして機械換気にはいろいろな種類があります。
この「換気」は、コロナでなくても必要なとても大事な設備です。
しかし、せっかく換気設備を設けても、計画された本来の換気ができていないというケースが多いのではないかと思います。
それはなぜなのか、今回はこの件について考えてみます。
目次
■換気設備、本当に効かせるためには
換気の役割
室内で生活をしていると、室内の空気は徐々に汚れてきます。
この汚染の発生源は「人」・「燃焼機器」・「建築材料」などです。
人からは、水蒸気や二酸化炭素が発生し、暖房機器やガスレンジなどの燃焼機器からは、二酸化炭素や一酸化炭素、窒素酸化物などが発生します。
さらに建材や家具、塗料からは揮発性有機化合物(VOC)と呼ばれる化学物質が発生します。
健康的な生活をするには、こうした汚染物質を室内から排除しなければなりません。
これが換気の役割です。
換気の役割には、ほかにもあり、まとめると次のような要素があります。
1)室内空気の浄化
2)熱の排除
3)湿気の排除
4)酸素の供給
5)有害物質の排除
このように室内で発生する汚染物質を屋外に排出し、清浄な外気を取り入れるのが換気です。
換気量が不足すると、室内の水蒸気や化学物質の濃度が上昇し、特にに水蒸気の濃度の上昇によって、結露やカビなどの建築汚染が発生してしまいます。
こうしたことを防ぐためにも、常に適正な量の換気が行われなければならないのです。
必要換気量
それでは、適正な換気量とはどれくらいのことをいうのでしょうか。
これについては建築基準法で定められています。
原則として換気回数0.5回/H以上の有効換気量を確保できる換気設備を設置する必要があります。
換気回数0.5回/Hとはどういうことかといいますと、換気をする対象の部屋の容積の合計の2分の1の換気量を1時間で換気するということです。
そしてこの換気は24時間継続して運転しなければなりません。
これを「24時間換気」といいます。
一方、一人当たりの必要な換気量も考慮する必要があります。
それは空気調和・衛星工学基準で、室内の二酸化炭素濃度を1000PPM以下とするという基準があり、そのためには一人当たり30㎥/Hの換気量が必要とされています。
例えば、住宅で、換気対象空間の容積が200㎥の場合、24時間換気では200㎥X0.5回=100㎥の換気量が必要とされます。
この家に3人の人が生活する場合は、3人X30㎥=90㎥の換気量が必要となりますが、先ほどの24時間換気では100㎥の換気網力がありますので、問題はありません。
しかし、もしこの住宅に4人が住んでいる場合は、必要換気量が120㎥となり、換気対象空間から求めた24時間換気では不足するので、この場合は24時間換気を120㎥まで能力を上げたほうが良いと言えます。
このようにして求めた換気量が必要換気量の値です。
次に換気の方式の種類についてみていきましょう。
換気方式の種類
換気には、汚染物質の排出の仕方によって、全般換気と局所換気の2種類があります。
全般換気
一般居室の空気清浄度を保つために必要な換気で、連続して換気が行われなければなりません。
汚染物質は人体や建材などで広く拡散していますから、全体の汚染を薄めるようにゆっくりまんべんなく空気が入れ替わることが必要です。
24時間換気はこれに該当します。
一般的に採用されている機械換気による全体換気には第1種換気(強制給排気方式)と第3種換気(強制吸排気方式)の2通りがあります。
第1種換気(強制給排気方式)
第1種換気は、給気と排気ともに機械動力によって行う方式です。
換気の過不足を生じさせにくい方式で、閉鎖性の高い個室で区切られた計画にも対応できます。
この方式は熱交換器を設置して排気の熱を回収して給気に与えることによって、換気負荷を抑え暖房エネルギー消費を低減することができます。
但し、熱交換器の消費電力は換気機器に比べると大きくなり、名古屋のような温暖地では、省エネルギー効果はあまり期待できませんので。設置には注意が必要です。
第3種換気(強制吸排気方式)
第3種換気は排気を機械動力によって行い、給気は給気口から自然給気で行う方式です。
便所や浴室の局所排気を併用して計画することができるので、施工が容易で安価に設置することができます。
ただ、自然給気なので、内外温度差や風による影響も受けやすいという問題もありますので、計画に配慮が必要です。
局所換気
台所のレンジファンや浴室の換気扇など、汚染の生じたときにだけ運転し、できるだけ室内に汚れた空気を拡散させずに排気するのが局所換気です。
台所のレンジファンで注意すべきことは、排気量が500㎥前後で、大きいため、適切な給気口を設けておかないと、レンジファンを付けたとたんに、部屋中の給気口から大きな風量の外気が入ってきてしまいます。
これを防ぐには、レンジファンの近くに排気量に見合った給気電動シャッターをレンジファンと連動させて設置するか、レンジファンを同時給排タイプとして、給排気をレンジフード自身で完結するようにするかの2とおり考えられます。
台所のレンジファンではこの問題が考えられていないケースが多いのではないかと思います。
注意が必要ですね。
計画換気とは
計画換気とは、一般的には寝室や居間などの清潔な空間から新鮮な空気を取り入れ、室内空間を経由して、浴室やトイレなど汚れや湿気が多い空間から空気を排出します。
これにり、室内の空気が検討に保たれ、快適な居住環境が維持できるのです。
計画換気の参考図を下記に示します。
註)北方型住宅の熱環境計画より掲載
この計画では、各階居室(台所、居間、和室、寝室、子供室)の給気口から外気を給気し、1階の洗面脱衣室の天井裏に排気ファンをもうけ、外部に排気しています。
これは第3種換気のダクトタイプの計画で、1階では便所、浴室に、2階では階段室、クローゼットまでダクトを設けています。
1階では台所、居間、和室の給気口から入った外気は便所を通過して排気ファンから外部に排気しています。
2階では寝室、子供室の給気口から入った外気は階段室上部とクロゼットの床面からダクトを通じて1階の排気ファンから外部に排気しています。
また、レンジフードファンはここでは連動の自然給気で独立で考えられています。
このような考え方が計画換気ですが、この計画通りに換気するには、重要な注意点があります。
それが建物の「気密性」です。
住宅の気密性が高くないと、計画した空気の入口(給気口)と出口(排気口)以外の隙間からの空気の出入りが増えて計画換気が機能しません。
計画換気が機能するとは、外気は給気口から室内に入り、室内の空気は排気口から出ていくことです。
計画換気を機能させるには、少なくとも気密性能(C値)が1㎠/㎡以下が望まれます。
もし、この気密性能が悪い場合は、どうなるかというと、たとえばこの計画では、台所、居間、和室の給気口から給気され、1階のトイレを通じて排気ファンから排気していますが、気密性が悪い場合はトイレ廻りの隙間から大半の外気が給気され、台所、居間、和室からはほとんど給気されない状態となってしまいます。
この状態をショートサーキットといいます。
気密性については、現状建築基準法でも特に規定はしていませんので、ほとんどの住宅でせっかく換気設備を設けたのに、実際はショートサーキットを起こしているのが実情ではないかと思います。
換気を本当に効かせるためには、建物の気密性能をあげるということがとても重要だということです。
まとめ
換気の役割には次の5項目があります。
1)室内空気の浄化
2)熱の排除
3)湿気の排除
4)酸素の供給
5)有害物質の排除
そして換気の種類には、24時間換気と呼ばれる全般換気と台所や浴室の換気などのような汚染が生じたときにだけ運転する局所換気の2通りあります。
特に全般換気は、室内の空気をまんべんなく入れ替えることが必要で、一般的には寝室や居間などの清潔な空間から新鮮な空気を取り入れ、室内空間を経由して、浴室やトイレなど汚れや湿気が多い空間から空気を排出します。
これが計画換気で、計画したとおりに換気するには、建物の気密性能を上げることがとても重要となります。
この気密性が悪い状態で換気しても、ショートサーキットといって、換気扇の周囲の隙間からだけ空気を吸ってしまい、まんべんなく室内の空気を入れ替えることができません。
そして、この計画換気を有効に働かせるには、気密性能(C値)を1㎠/㎡以下にすることが望まれます。
換気と気密はセットだ考えていくことが良いと思います。
Categorised in: 建築設計あれこれコラム