43:その間取り大丈夫? 安全な間取りの見分け方-2(実例編)

2024年9月12日

「住宅瑕疵保証機関」の保証制度を利用した住宅の中で、構造的な問題で2階の床梁のたわみが原因であり事故事例が増加しているそうです。

 

この問題の8割が意匠設計や架構設計によるものというデータがあります。

 

架構設計とは、木造住宅の柱や梁などの組み方の設計のことを指しますが、いずれにしても設計上の問題が原因ということです。

 

昔の建物は大工の棟梁が、間取り(平面)考え、架構設計も同時進行で考えていました。

 

しかし、今ではそうした大工さんも減ってしまい、設計と施工の分離が進み、設計者が未熟な場合は「間取り」だけを考え、「架構」のことをあまり考えていないというケースも多いようです。

 

未熟といっても立派に建築士の免許を持っている設計士です。

 

架構を考えた間取りでなければ、無理をした架構設計をすることになります。

 

こうした現状、つまり、架構的に無理をした設計が先ほどのような、床梁のたわみといった事故事例を引き起こしている一因にもなっているわけです。

 

前回(その間取り大丈夫? 安全な間取りの見分け方-1)は、提案された間取り(平面図)が、架構的に(構造的に)無理をしているかどうかをチェックする方法として、「壁直下率」と「柱直下率」という2つの指標について解説しました。

 

今回は、実際に無理をした間取りを例にして、「壁直下率」「柱直下率」の値がどうなるか、そして何がまずいのかについて解説したいと思います。

 

その間取りは下図のとおりです。

 

 

 

 

 

いかがでしょうか。

 

間取りを見る限り、どこが無理をしているか一見わからないと思います。

 

前回のご説明で、木造の間取りは極力1階の壁と2階の壁を一致させるように計画しますとお伝えしました。

 

今回のこの間取りは、2階の外周の壁の位置が、「一通り」「る通り」以外は1階外周の壁と一致していません。

 

特に2階で角となる「七ーろ通り」の柱は1階まで下りていません。

 

ということは2階の梁で受けていることになります。

 

これは相当無理をした間取りだといえます。

 

その結果、その梁がたわんでしまうという事故につながってしまうということが起こりうるわけです。

 

それでは、「壁直下率」と「柱直下率」について検証していきましょう。

 

 

 

 1)壁直下率(無理をした間取り編) 

 

 

「壁直下率」の考え方については、前回のコラムを参照ください。

 

それでは、「壁直下率」の検証図面です。

 

 

 

ピンク色のマーカーが2階の間取りを示しています。

 

青色のマーカーは1階のみの壁を示し、紫色のマーカーは1階と2階の壁は一致している部分を示します。

 

このように1階の図面に2階の間取りを合わせて入れるとよくわかりますね。

 

ここで注意すべきは、ピンクのマーカーの壁です。

 

これは2階に壁があるのに、1階に壁が無い部分を示しています。

 

図面の向きでご説明すると、下側と右側の壁がほとんどピンク色になっています。

 

かなり無理をした間取りであることがわかりますね。

 

それでは、「壁直下率」に数値を見てみましょう。

 

全体では。52.3%という結果です。

 

目標は60%以上ですから、NGということになります。

 

ただ、無理をした間取りなのに、それほど数値が低くないのは、外周廻りの「一通り」「る通り」で数値を稼いでいるからです。

 

しかし、問題なのは、前回もご説明したとおり、1,2階の壁が一致しやすい外部側の壁を除いて、内部側の壁がどうなっているかです。

 

そこで、「一通り」「る通り」を除いて、」壁直下率を算定すると

 

36.2%という結果になりました。

 

やはり、相当無理をしている間取りだということが判明しました。

 

 

次に、「柱直下率」を見ていきます。

 

 

 2)柱直下率(無理をした間取り編) 

 

 

検証した図面です。

 

 

 

 

「柱直下率」の目標は50%以上です。

 

こちらの全体での「柱直下率」は56.5%でOKということになります。

 

ただ、「壁直下率」と同様に、「一通り」「る通り」を除いて、」壁直下率を算定すると

 

33.3%となります。

 

やはり、無理をした間取りだということがわかります。

 

実際の現場では、このような無理をした間取りや、もっともっと無理をした間取りがあります。

 

特に、今回のように外周の壁で、1階と2階とが一致していない場合は要注意ですので、そのような場合には一度この「壁直下率」と「柱直下率」を計算してみると良いと思います。

 

ご自分で計算できなければ、提案した設計者に数値を出してもらってもいいと思います。

 

数値が悪い場合は、間取りを再検討してもらうのが良いでしょう。

 

 

 

さて、最後に「壁直下率」と「柱直下率」の数値が悪くても、どうしてもその間取りがいいのだというケースもあることでしょう。

 

次に、数値が悪い場合の対処方について、解説します。

 

 

 

 「壁・柱直下率」の数値が悪い場合の対処方 

 

 

基本的には、数値が悪い場合には、間取りを再検討することが原則です。

 

しかし、どうしてもその間取りがいいという場合は、どうしたらよいか。

 

その方法は、無理をしたために負担のかかっている部材、多くの場合が「梁」だと思いますが、その梁の大きさを「許容応力度計算」という構造計算によって算出してもらうことです。

 

構造計算によって、構造が持つように算定された部材であれば、少々無理をしたプランでも安全性は担保されています。

 

しかし、安全ではありますが、無理をしたため、その部材の大きさは大きなものになり、その部材だけでなく、関連する他の部材にも波及して、結果的にコスト増につながることは間違いありません。

 

また、プレカット業者に部材の大きさを出してもらっているから安心とは言えません。

 

プレカット業者さんは基本的には構造計算はしません。正式に構造計算の依頼をすれば計算してもらうことは可能ですが、構造計算は基本的には建築士の仕事です。

 

もし、今回のような無理をしたプランが提案され、どうしてもその案で進めたいという場合には、許容応力度計算による構造計算をしてもらってください。

 

しかしながら、お勧めは無理をした間取りではなく、合理的な間取りを再検討すべきだとは思います。

 

また、構造計算については、無理をした間取りだから計算するのではなく、どんな場合でも基本的に構造計算をするということをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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